クリーチャープレイバスケットボール 第一章 夢と現実を見る少女 二話

第一章 夢と現実を見る少女 二話

 

 「よし、準備OK」

 「僕が玄関まで引いてくよ」

 「ありがと明人」

 郁美が意気揚々と準備を終えると、明人が積極的な姿勢で笑顔でグリップを握る。

 理亜は優しくお礼の言葉をかける。

 心地よい振動が、身体に感じる理亜。

 少しすると、玄関を出て、アパートの外まで出てきた三人。

 「それじゃ気を付けてね」

 「はいはい。悪いけど晩御飯は先に食べててね。今日の御飯は全部、テーブルの上に置いてあるから」

 「うん。分かった」

 事前に用意してあった晩御飯。

 いつもながら郁美の手料理に心の中で感謝する明人。

 「じゃあ、行ってくるね」

 理亜が可愛らしく手を振ると、明人も笑みを浮かべながら手を振る。

 しばらく外で見送っていた明人。

 そこへ明人のスマートフォンに、電話が鳴る。

 先程までとは別人のように氷の様な瞳になり電話に出る明人。

 「……仕事だ」

 低い声で重圧をかけるような一言に、明人は「分かった」と一言だけ返し電話を切った。

 「足は痛む?」

 「大丈夫」

 暖かい陽射しの下の歩道で、車椅子を押しながら、郁美は何気なく理亜の足を心配する。

 理亜は明るく返事をする。

 「ほんとごめんね。お金にもう少しゆとりがあれば良かったんだけど」

 「私の事はいいよ。それより一時間も押さなきゃいけない母さんの方が大変でしょ。こっちこそごめんね」

 郁美の言葉に少し消沈したように謝罪する理亜。

 理亜の家は貧困とまでは言わないが、お金に余裕がないのだ。

 「家族なんだから気にしなくていいの」

 郁美は満面の笑みで暖かく言葉を返す。

 「それより義足の件が上手くいったら、またバスケットボール出来るんじゃない? 今から楽しみにしてなさい」

 無邪気に笑みを浮かばせながら郁美は、理亜を元気づけようとする。

 そして、理亜は鮮明に脳裏に過去がよぎる。

 ◇◆◇

 砂川市、空知太、二千二十八年、九月八日。

 十六歳にして、天才バスケットボールプレイヤーだった理亜はインターハイを優勝したその夜の帰り道。

 鼻歌を歌いながら意気揚々とスキップして歩道を歩いていく理亜。

 「フッフ、フフフフッフーン♪」

 浮かれていた理亜は背後から近付いてきた何者かに気付かず、覆いかぶされるようにして背中から抱き着かれ、胸を鷲掴みにされた。

 「キャッ!」

 突然の出来事に悲鳴を上げ、恐怖で硬直するように狼狽するぐらいしか出来なかった。

 「イヒヒヒヒッ」

 その者は声からして男性だった。

 下卑た不快な笑い声を出しながら、理亜の胸を揉みしだく。

 「やっ、やめて――」

 痴漢にあった理亜は声を上げているつもりだったが、震えるような声しか出せなかった。

 極上の肌触りと感触、桃の様な甘い匂い。それが男の興奮を高めていく。

 そして、男はある程度、満足したのか、理亜を正面に向け、理亜の頬を平手打ちする。

 住宅街にもかかわらず、非道な真似ばかりする男。

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