
第八章 プロへ挑め 三話
そう。奏根の言う通り、今から理亜たちが対戦する相手は全員、女子プロバスケットボールの選手たちなのだ。
「監督。まさかと思いますが、私たちはプロと対戦するのですか? クリプバに参加する二年間の間は、プロやアマチュアの大会には不参加でなければと言う条件だったはずですし」
「そのまさかだ。そこで練習している人たちは、トヨタ自動車のアンテロープスの選手たちだ。偶然にも砂川に観光していたらしくてな。さっき急いで電話をしてギャラを払い、出場してもらう事になった。それに練習試合はペナルトギアさせ使わなければ問題ないんだ」
「ちなみにいくら払う予定なの?」
豪真が淡々とそう言うと、智古はギャラの値段が気になり素朴な質問として聞いてみた。
「一人、二十万だ」
「「えっ!」」
自信満々にギャラの値段を言う豪真に一驚する理亜たち。
「ねえねえ! 私たちは⁉」
理亜は自分たちにもギャラが貰えるものかと思い込み目をキラキラさせながら思わず豪真に聞く。
「あるわけないだろ。プロでもないのに」
素早く理亜にツッコむ豪真。
「し、仕方ないですよ。むしろ私たちは、胸を貸さられる側なんですから」
「何言ってんだ加奈。こんな所で日本ランク二位のプロが相手をするんだ。むしろ引導を渡す意気込みで挑もうぜ。俺たちで、日本の均衡を崩すんだ」
加奈がおどおどしながらそう言うと、奏根が熱い胸の内を握り拳を作りながら語る。
「念のために行っておくが、ペナルトギアは使うなよ。あれはクリプバでしか使用できないうえ、本来、表舞台の選手とは君たちは無縁の存在なのだから」
「大丈夫だよ監督。私たちは、ちゃんとスポーツマンシップに則る良い子ちゃんだから。ね、皆?」
豪真が眉に皺を寄せながら念押しすると、智古がウインクとブイサインで豪真に答え、その後すぐに理亜たちに振り向くが……。
「「はっ!」」
「……お、お前らな……」
智古以外の皆は、隠れながらペナルトギアを使用していた。
黒い縦模様の後を、しっかりと身体全体に残しながら、まるで盗み食いでもしている所を、母親に見られてしまったかのような驚き方をする。
豪真は呆れて大きな溜息を吐く。
「ねえ貴方たち。大丈夫? なんか身体が黒くなってるけど?」
理亜たちを見ていた、アンテロープスの選手の一人が、憂慮しながらそう聞いてくる。
「いえいえ何でもありません。煤みたいなものですから、気にしないでください。すぐ取れますから」
豪真が苦笑いしながら対応する。
「そうなの。ならいいんだけど。あ、そうだ。私はアンテロープス、キャプテンの岡本千歳。今日はよろしくね」
岡本選手は明るく挨拶をする。
笑顔が似合う、清純なイメージの人。
その間、理亜たちはこっそりとペナルトギアをオフにしていた。


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