
第九章 実力差 二話
投げた先は、智古が居る場所。
加奈はちゃんと、智古が相手マークから外れた所を見逃さなかった。
ボールを手に取った智古。
田中選手はマークは外されたものの、それはパスを貰いに行くまでの間。
加奈からパスを受け取った智古の前に、立ちはだかる田中選手。
智古は何の躊躇もなく、ノーフェイクでジャンプシュートしようとした。
田中選手も飛び、智古とほぼ同じ高さまで飛んだので、誰もが智古がブロックされるのでは、と思わせる描写だった。
しかし、智古の身体が宙で、徐々に後ろに下がっていた。
フェイダウェイシュート。
智古がノーフェイクでシュートした理由はこれだったのだ。
後ろに下がりながら智古がシュートしようとしたその時、ボールが宙で背後から叩かれた。
ギョッとした智古。
その相手は、シューティングガードの三浦選手だった。
「くそ!」
奏根が吐き捨てるように言いながら、弾かれたボールを追う。
何とか掴めたが、三浦選手はすぐに奏根のマークに戻る。
奏根はロールターンで三浦選手を抜こうとするが、三浦選手は抜けなかった。
険しい表情で攻めあぐむ奏根。
すると、理亜が三浦選手にスクリーンをかけ、三浦選手の動きを制限させる。
奏根はスクリーンをかけた右側からドリブルしていくと、三浦選手がスクリーンをかけられたことに気付き、ギョッとする。
理亜を追っていた平下選手が、理亜の狙いに気付き、奏根を止めようとするが、奏根がスリーポイントラインから、シュートを打つ。
一歩近づくのが遅かった平下選手。
ブロックしようとしたが、宙でボールにかすりもしなかった。
そのままボールは、リングの中に入る。
「よし!」
豪真が思わず握り拳を振るう。
「奏根ちゃん。後で北菓楼のシュークリームおごってね」
理亜が奏根に近付き、一緒に自分たちのコートに戻りながら、期待に胸を膨らませる様な笑い方をする理亜。
「うっせえ。さっさと戻るぞ」
奏根は少し頬を赤らめながら恥ずかしがっていた。
あれだけ憎たれ口を叩いていた相手にフォローされた事が恥ずかしかったのだろう。
高貴たちは微笑ましいように見ながら笑っていた。


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