
第一章 夢と現実を見る少女 三話
仰向けになるように背中からコンクリートに叩きつけられる理亜。
頬と背中から伝わる痛みで上手く体制が取れずにいると、男は刃渡り六センチほどのナイフを取り出し、仰向けで苦しんでいる理亜の右足の膝から脛(すね)にかけてナイフでめった刺しにした。
「キャアアアア!!」
痛みで断末魔の様な悲鳴を上げる理亜。
男は鼻息を荒くしながら、刺し終えると、その場を一目散にして逃げ出した。
全力疾走で走る男。
理亜は苦痛で顔をゆがませて呻(うめ)き声を上げていると、理亜の近くに住んでいた近隣住民が騒ぎを聞きつけ、理亜の元に走ってくる。
「おい! どうしたんだ⁉」
「酷い血よ! とにかく救急車を呼ばないと!」
中年の男性と女性が、慌ただしくしながら救急車と警察を呼んだ。
おびたたしい血を流しながら、苦しみで顔をゆがませ続ける理亜。
気絶した理亜は救急車に運ばれ、砂川市立総合病院で治療を受けたが、傷があまりにも深いため、再生治療が不可能な状態だった。
致し方なく、苦渋の決断を下すしかなかった医師は、理亜の右足を切断した。
次の日、目が覚めた理亜は、ベットの上だった。
入院してた理亜は、上体を起こし、自分の右足に違和感を感じた。
恐る恐る布団をめくり、右足を確認した理亜は。絶句した。
その場で大粒の涙を流し、嗚咽を漏らす理亜。
深い悲しみに苛まれた理亜だったが、家族の支えがあり、気持ちだけは切り替える事ができた。
失った右足は、もう二度と元には戻らないが、家族は失っていない。
そう思う日々があるからこそ、理亜は笑えるのだ。
◇◆◇
「それにしても滝川まで徒歩は辛いよね。母さん大丈夫?」
「大丈夫よ。あんたや明人が居るからこそ、母さんはどれだけ困難な道のりでも生きていけるんだから。私の宝よ」
「ちょっと、急にそんなこと言わないでよ。恥ずかしいじゃん」
若干、しんみりしている理亜を元気づけるために、微笑みながら胸の内を吐露する郁美。
理亜は不意の発言に照れて、頬を少し紅潮させる。
そんな前を向いている理亜の頭を優しくなでる郁美。
それが嬉しくなり、頬に笑みを浮かばせながらはにかむ理亜。
「ねえお母さん。これから行く竜宮城病院、て、名前からして胡散臭くない? だって病院に竜宮城なんて名前、普通付けないよ。そもそも病院のイメージ自体、悪くなったから行くんだから、不の温床って意味に近いかも」
理亜は眉を顰め、渋い、親父面で言う。
「なんでも、そこの医師の人は、病院に内気なイメージを持たせないために、その人のウェブサイトでこう発信してるよ。「病院は天国に近い場所。貴方たちはそれを理解していない。何故なら、病院は安寧と終焉を迎えるのにふさわしい場所だから。香しい消毒液の匂い。泣き叫ぶ子供の声。治療を受ければ必ず血を見ることになる手術室。どれも素晴らしい事ばかりだ。だからこそ貴方たちも目を覚まして医師を敬い、自分の身を私に委ねなさい。きっと天国に連れて行くでしょう。最高の娯楽を貴方に」て」
「医師がそれ言うとサイコパスな気がしてならないよ」
郁美は能天気に言うが、理亜は肩を落としながらげんなりしていた。
本当にその医師の所に向かって大丈夫なのか?
「けど変な話だよね。先着一名様に限り、義手か義足をプレゼントするって話。どう考えても真面な医師の発言じゃないよ」
理亜はパンフレットを見て不安そうに語る。
パンフレットには、面接で合否を決めると書いてあるが。
「仕方ないでしょ。家に義足を買えるお金なんて無いんだから。あんたは飛んで火にいる夏の虫、て、考えとけばいいんだよ」
「いや。今までのその医師の人の価値観を総合的に分析しても、そう思ってるのはその医師の人だと思う」
郁美は前向きに考えていたが、理亜は顔を引きつっていた。
そうこうしている内に、滝川の竜宮城病院に着いた二人。
急に緊張してきた理亜。

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