
第十章 強者から 八話
加奈は右手に持ったボールを高らかと上に掲げ、力強く前へ投げた。
殆ど、ゴール一直線のコース。
ゴール下には高貴が居る。
もちろんパレイ選手も。
だが、何故か力強く投げたはずのボールは、まっすぐ飛ばず、円を描くようにして右斜めに向かい始め、コートの上で弾んだボールは更に右にぐにゃりと曲がり、百度して加奈の右斜め前に戻ってきた。
実は、加奈は力強く投げたのではなく、手にしたボールを掌底から転がすようにして、指先でコントロールし、転がすようにして投げたのだ。
なので、回転がかかり、ボールはゆっくりと飛び、弾んだ所で加奈の近くにまで戻ってきたのだ。
加奈は右斜め前に走り、唖然としている宙に今だいる岡本選手を抜いた。
右斜めから戻ってきたボールを、右手で理亜の方に弾く。
理亜は驚いたがすぐに気持ちを切り替え加奈のパスを受け取った。
理亜はスリーポイントラインにまで下がり、シュートを打つ。
平下選手は一歩間に合わず、理亜が放ったシュートは見事決まった。
五十一対五十四。
三点差まで追いついた理亜たち。
岡本選手がパスを受け取った瞬間、すぐさま走ってドリブルしてきた。
アンテロープスはゆっくり攻める気はないらしい。
加奈が岡本選手をシュートコーナーに入れないようディフェンスをする。
岡本選手はバックチェンジからレッグスルーとドリブルすると、右から加奈を抜こうとした、かと思いきや、ロールターンでクルリと回転すると、回転しながら三浦選手に絶妙なパスを出した。
加奈はパスカット出来ず、パスされたボールは左サイドにいる三浦選手の手に渡った。
三浦選手がパスを貰うと、奏根がディフェンス体制に入る。
絶対に抜かせまいと、鋭い目をする。
シュートヘジテイションで奏根にフェイクを入れると、奏根がジャンプする体制に入る。
しかし、それはフェイクで三浦選手は田中選手にパスを出した。
田中選手はパスを貰うと、智古がすぐにカットしようと前へ出る。
試合時間は残り六分十二秒。
非常にまずい状況なのだ。
早くボールを奪い点を取る必要がある。


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