
第十章 強者から 九話
田中選手は手を伸ばしてきた智古の手から逃れるため、ロールターンで左から抜こうとした。
だが、智古も抜かれそうになることは想定していたので、すぐに切り替え左サイドを守る。
田中選手もそれを読んでいたのか、フックシュートの構えを取りジャンプする。
智古もシュートさせまいとジャンプする。
しかし、それはフックシュートではなくフックパスだった。
パスされた相手はパレイ選手。
パレイ選手はパスを貰うと、大胆にも高貴のディフェンスを無視して飛ぼうとする。
背の高さを生かしたプレイをするつもりのようだ。
高貴はまずいと思ったがジャンプするしか選択肢はなかった。
しかし、パレイ選手がシュートを打つため、跳躍しようとしたその時。
パン!
なんと、加奈がパレイ選手が手にしているボールを下から上に跳ね上げたのだ。
パレイ選手は驚き一瞬動きが鈍る。
それを見逃さなかった高貴がリバウンドでボールを取った。
両手でがっちり掴み、誰にも渡さないと言う気合が見て取れる。
「よし!」
豪真がテンションMAXで喜ぶ。
高貴はすぐに近くにいる加奈にボールを渡す。
その時互いに頬に笑みを浮かべて頷き合っていた。
加奈はすぐにドリブルで相手チームのリングに向かう。
試合時間は残り五分三十六秒。
果たして間に合うのか。
加奈がとにかく猛ダッシュでドリブルする。
奏根と智古が前へ出て高貴が相手のゴール下にまで走る。
加奈は目の前にまで迫ってきた岡本選手をドリブルで抜こうと、レッグスルーからフロントチェンジで右から抜こうとした。
岡本選手は加奈のドリブルに少しも揺さぶられず徹底したディフェンスをする。
しかし、加奈はビハインドパスで左にいる奏根にパスを出そうとする。
それすらも読んでいた岡本選手は左に手を伸ばす。
しかし、加奈はエルボーパスで左肘で右にいる智古にパスを出した。
智古はパスを受け取りフリースローサークルにまでドリブルしようとする。
そこで田中選手が智古の前に回り込み、ディフェンスをする。
智古はバックチェンジでボールを右に持つと、フックシュートの構えを取る。
田中選手はそうはさせまいと、手を智古の目の前で広げ、視界をくらませる。
その時には智古はすでにジャンプしていたので、どうしようもなかった。
「智古ちゃん!」
そこで、理亜が智古の右横で声を上げる。


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