
第十章 強者から 十四話
「「私も! 私も!」」
智古に釣られ、奏根以外のメンバーは、飛びつくような勢いで名乗り出た。
奏根だけが、呆れて深い溜息を吐く。
「うん。待ってる。これからもバスケを愛し続けてね」
そこで、アンテロープスの選手たちが顔を見合わせ微笑みながら軽く頷くと、平下選手がウインクしながら優しく声をかけてくれた。
「「はい! 今日はありがとうございました!」」
理亜たちは、先輩たちの言葉に感銘を受け、覇気のある声で深々と頭を下げる。
「今日はお越しいただきありがとうございます。この子たちにも貴重な経験をさせてやる事が出来ました。一人の監督としてだけでなく、一人の人間として、貴方たちに敬意を。本当にありがとうございます」
横から豪真が現れると感謝の言葉を込めた言の葉を言う。
「いえ。こちらこそ貴重な経験になりました。それからさっき私たちで話し合ったんですけど、今回のギャラはいりません」
「「え!」」
岡本選手が謹んでそう言うと、理亜たちは一驚する。
「それはまた何故?」
豪真が訝しい目を岡本選手に向ける。
「さっきも言ったじゃないですか。こちらも貴重な経験が出来た、と。とてもじゃないですけど、この子たちと試合できたのはお金では買えません。だから私たちの気持ちを汲んで下さい。ねっ。みんな」
三浦選手が笑顔でそう言うと、アンテロープスの選手たちは「うん」と迷いなく微笑みながら言う。
「……分かりました。今日は本当にありがとうございます」
少し呆気に取られた豪真だったが、少しすると、有難味が沸々とにじみ出るかのように湧き出し、自然と感謝の言葉を口にする。
理亜たちも満面の笑みになる。
「ねえ豪真さん。浮いたお金で、皆でご飯食べに行こう!」
「そうだな。行くとするか。皆さんもよろしければどうですか? せめてご飯を食べてもらうぐらいの善意を受け取ってほしいと思うのですが?」
「……そうですね。じゃあ、お言葉に甘えて」
理亜の申し出に、豪真は躊躇なく快諾すると、その話をアンテロープスの選手たちに持ち出す。
そのお願いに、アンテロープスの選手たちは意向を確認するように一瞥し合うと、満面の笑みで請け負ってくれた。
こうして、理亜たちの練習試合は負けはしたが、最高の形で終わりを迎えたのだった。


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