
第十一章 謀略・仲間・友情 六話
そして、練習を重ねた理亜たちは、試合前日まで迫っていた。
試合前日の日曜日の午後、理亜は友人である文音とお菓子のほんだに訪れ、ケーキを食べていた。
「あっアー~! うっブゥッ!」
「七十点?」
アップルタルトを食べ終えた文音は壮大なゲップをし、理亜が何故か点数を口にする。
どうやら、文音はゲップの音で点数を現しているようだった。
ちなみに、文音はアップルタルトを、ワンホール食べきった。
「うん。いつも通り変わらないわね。やっぱり市店はこうでなきゃ」
文音はにっこりと笑いながら答える。
理亜は慣れているので、文音のゲップにいちいちツッコまないのだ。
「ここの味もいつも通りだね」
理亜はどこか感傷に浸っているかのようにガラスの窓の外を見つめる。
どうやら理亜は、変わらない味に対して、自分が別人になっているような感覚に慣れていないのだと思う。
そんな理亜を見て、文音はどこか気に病むみたいな表情になる。
「……ねえ理亜ちゃん。またバスケ一緒にしない? 噂じゃ、理亜ちゃんもうバスケ始めてるって聞いたし」
「え! あ、いや、その……」
文音の言葉にバツが悪そうな表情で動揺する理亜。
どうやら練習試合を重ねてきたため、理亜のバスケをプレイしていると言う存在が色濃く印象に残り、噂になっているのだろう。
ましてや理亜はインターハイ優勝校のエースなため尚更、印象深くなってしまうのは致し方ない事である。
「えーとね、文音ちゃん。実は私、今、他のチームと組んで練習してるんだ。それでね、そのチームと組んだら、他のチームに入れない、掟と言うかなんと言うか、そんなのがあって、高校での試合は一緒にプレイできそうにないの」
理亜はクリプバだけ知られないように、ある程度の真実を、あたふたしながら口にする。
そこで、文音は少し暗い面持ちになったが、一変して母性間がある様な、柔らかい表情になる。
「……分かった。理亜ちゃんにも理亜ちゃんの諸般な事情がある事は理解したよ。でもね、私はやっぱり、理亜ちゃんとまた一緒にバスケしたいんだ。だからその時が来るまで待ってるね」
何かを察したわけでもなく、文音はただ、理亜の気持ちに配慮し、待つ、と言う言葉を優しく口にする。
「……ありがとう……文音ちゃん」
理亜は少し泣きそうになるのを堪えながら、感謝の気持ちを込めて口にする。
理亜も文音と一緒にバスケがしたいと言う気持ちは、文音以上にあるのかもしれない。
「ほらほら、泣かないで。さあまだまだ食べましょう。今日は私のおごりだから」
「――うん!」
元気づけようとする文音の言葉に、嬉しく、そして有難味を感じながら元気よく頷く理亜。
今の二人の関係はバスケを通し、そして、日常を楽しく積み重ねてきた結果なのかもしれない。
何物にも代えられない友情が、そこにはあった。
二人は確かな友情を噛みしめながら、食事を楽しんだ。


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