
第十二章 波乱か? 五話
夜の二十時、砂川警察署では未だ逮捕出来ない殺人犯に悩まされていた。
捜査が完全に行き詰っているような感じ。
「なあ、このまま殺人犯捕まえられなかったら、俺らどうなんのかね?」
善悟はやる気のない様子でパソコンを操作し、事件の関連性のある人物を探していく。
「左遷まではいかないだろうが、砂川の評価は地に落ちるだろうな」
輝美はパソコンを睨みつけながら真剣に捜査していた。
「この前の、豪華客船での事件。あれも犯人に繋がる手がかりは無かったし、目撃証人もゼロ。マジでどうなってんだ、北海道は」
大きな溜息を吐きながら、うなだれる様に言う善悟。
「監視カメラとか増やせばいいのに、何で実装されないんだろうな?」
「予算の問題じゃないか? 札幌はともかく、砂川は田舎だしな」
「たくっ。市長はこの一大事に何考えてんだか」
善悟が疑問に思う事をふてくされながら輝美に聞き、輝美はぶっきらぼうに答える。
さらにやる気を無くした善悟は、うなだれながら蛍光灯を見上げる。
「なあ。クリプバの参加者たちも狙われてるんだよな?」
「ああ。この前、ハッキングしたら、選手の名前からも何人かが引退して、その何人かは数日後に殺されている。それがどうかしたか?」
「いやさあ、その事実は政府や警察のお偉いさん方は既知してるはずだろ? なんで全面捜査に踏み切らないのかね?」
善悟は嫌気がさしながらも、輝美に疑問に思っていることを聞く。
すると、輝美がスマートフォンを取り出し文字を入力していく。
それを目にした善悟は眉を顰め、画像を見せてきた輝美のスマートフォンを見る。
それにはドキュメントの文章が書かれていた。
『おそらく警察上層部や、一部の政治家たちが今回の殺人事件に関与している可能性がある。それから捜査に関しては少しあてがある』
「えっ! まじで! 上層部や政府がこの事件に絡んでる⁉」
善悟が飛び跳ねる様に驚くと、輝美がシー、と喋るなと言うアイコンタクトを取る。
「あっ、わりいわりい。で、その当てって?」
善悟は周囲を動揺しながらキョロキョロと見ると、気持ちを切り替え、輝美に視線を向ける。
すると、輝美はスマートフォンで再び文字を入力していく。
周囲の煙草の煙や、野太い刑事たちの声だけが、善悟の五感を刺激する。
『俺がクリプバの会員になり、その秘密を世間に漏らす』
その見せつけられた画像に善悟は一驚する。
「ちょっと待てよ。それって命が狙われる確率が上がるんじゃね?」
善悟は冷や汗をかきながら聞いてみると。
「それしかない。それにその囮は俺がやる」
輝美は覚悟を決めた表情でそう言う。
「いやいや、そういう問題じゃなくてさ。つあっー! もう!」
善悟は訳が分からない様なテンパり方をして、髪をわしゃわしゃとかく。
何か引っかかる様子の善悟は一度、冷静になり輝美に向き合う。
「あのさ、何か俺たち以外でまずい事が起きないか?」
危惧していた漠然な憶測が脳裏をよぎる善悟は顔を顰める。
「まあな。この方法を取ると、秘密を知った一般市民が、あの連続殺人魔に殺される可能性が濃厚だ」
輝美は鋭い眼差しで肝が冷える言葉を冷静に語る。
仮に輝美がクリプバの会員になっても、その秘密を知らない一般人に漏らせば、その秘密を知った一般人は殺されてしまうと言うケースになる可能性が極めて高くなる。
「そうか。それだよ。俺が漠然と危惧していた問題は。マジでそれを実行するのか?」
「……少し猶予をくれ。改善点がないか探してみる」
何かを、ふと思い出したかの様な反応をする善悟はその問題に直面し、どうしたらいいのか分からずじまいだった。
輝美はそんな善悟の問いに少し間を置き、眉を顰めながら答える。
「なあ。この際、次善策でもいいんだぞ?」
「生憎、これ以下や以上の策はないんでな」
乗り気ではない善悟は少し辟易として輝美に聞いてみるが、輝美は涼しい顔で受け流す。
善悟はとんでもない事件だ、と再確認し深い溜息を吐く。


コメント