
第十四章 ラフプレーの嵐 八話
「智古さん!」
高貴が取り乱すかの様な素振りで慌てだす。
打たれたシュートは決まる。
だが、そんな事よりも気にすべき案件があった。
「智古ちゃん! しっかりして!」
メンバー全員が智古の元に駆け寄る。
理亜は必死な形相で声をかけると、他のメンバーも智古に大声で声をかける。
「うっ、ううぅ」
智古は俯せになった状態から、むくりと起き上がると、痛々しい表情で、鼻血を大量に流していた。
手で押さえても、ポタポタと垂れる智古の鼻血。
「何なんだよちくしょー。なんであの審判は笛を吹かないんだ!」
奏根は頭がこんがらがってきたみたいに動揺する。
もちろんそこには明確な怒りが込められていた。
「……レフリータイム!」
審判の中年の男は、どこか嫌気がさすような相好になると、仕方なくと言った感じでレフリータイムを取る。
それを目にした加奈は、尋常ではない怒りが沸々と湧き上がる。
「何でファールを取らないんですか! どう考えてもこんなのフェアじゃありません!」
「ピー! 白七番、テクニカルファール!」
「「――‼」」
加奈の憤りが爆発したその時、審判の中年の男は険しい表情で加奈にテクニカルファールを言いつける。
理亜たちは言葉が出てこない程、驚愕した面持ちになる。
「よせ加奈。それよりも今は智古だ」
豪真がコート場に駆け寄り、加奈の肩にがっしりと手で掴み、悔しい表情で言葉をかける。
加奈は今にでも泣きそうな表情で、怒りと悔しさでいっぱいな心情を抱く。
「さっさとしやがれ! どんだけ脆弱なんだよ!」
すると、敵チームのシューティングガードの駒井が、キレていた。
奏根はそんな駒井にギロリトした目を一瞥すると、黙って智古に肩を貸し、自分たちのベンチに戻る。
「智古ちゃん! 大丈夫⁉」
理亜が智古の傍らで心配した面持ちで声をかける。
「……うん。これくらいへっちゃらだよ」
智古は心配をかけまいと、いつも通りの笑顔でそう言う。
豪真がガーゼを智古の鼻の中に入れ、何とは止血は出来た。
「さっさとしろ! お前らのせいで時間が空過する!」
事もあろう事か、審判の中年の男は、苛立ちながら豪真たちを急かす。
「くそ、くそ、くそ。こんなの俺の知ってるバスケじゃねえ」
審判の中年の男を睨みつけた奏根は、悔しさと怒りで気がどうにかなったか見たいに打ち震えながら、ベンチの椅子に両手を置き、俯瞰しながら、嗚咽を漏らす。
理亜たちも同じ思いだった。
その理亜たちの気持ちを踏みにじるかのように、ゼルチャートンソンチームのキャプテン、佐久弥が「いいねえ。ああ言う連中を見てるとゾクゾクするよ」と、狂気染みた表情で、愉悦の言葉を口にする。
観客たちは、そんな中「いいぞ! もっとやれー!」と意気投合していた。
「どいつもこいつも正気の沙汰じゃないな」
豪真はフルフル怒りで震えながら、口から怨嗟でも漏らすかのように、怒りと憎しみの目を会場の客たちや、ゼルチャートンソンチームのメンバーたちに睥睨する。
「ピッ! 試合を再開します!」
そこで、しびれを切らした審判の中年の男が、勝手に試合を進める。
一驚した理亜たちは、仕方なく、苦渋の相好で、コートに戻る。


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