
第十五章 あってないような対価の横行 一話
豪真はそんな理亜たちの背中を悲しそうな表情で見守る事ぐらいしか出来なかった。
試合は再開し、ボールはゼルチャートンソンチームからとなる。
点数は三対六で理亜たちが負けている。
しかも、まだ第一クウォーターだと言うのに、奏根は、ファールを二つ付けられている状態。
加津地は不敵な笑みを浮かべたまま、ゆっくりと理亜たちのコートにドリブルで向かう。
まるで、蛇が獲物を捕食する前に、締め付けて弱らせにかかる様な。
加奈は今までにないくらい、警戒心を高めていた。
加津地が、理亜たちのセンターサークルにまで足を運ぶと、一気に加速する。
加奈は、先の痛みを堪える覚悟で、ファール擦れ擦れのディフェンスをする。
しかし、加津地は気にも留めず、強引に右から抜こうとすると、加奈を片手で力強く押しのけ、加奈はその場で転倒してしまう。
それを目の当たりにした理亜たちは驚愕すると、すぐに加奈のフォローに向かう。
理亜と智古がダブルディフェンスで加津地を止めにかかる。
加津地は理亜のマッチアップが外れた喜多に鋭いパスを出すかと思いきや、わざと、理亜の顔面目掛け、ボールを片手で力強く投げた。
「――ッ!」
理亜はギョッとした表情で間一髪で躱し、そのボールは喜多の両手に収まる。
スリーポイントシュートをそこから打った喜多。
理亜は負けじと、その空中の最高到達点のボールに目掛けジャンプすると、妨害される事無く、そのボールを両手でキャッチし、コートの下に足を付ける。
しかし、加津地は理亜が手にしているボールを、暴力的に奪い取る。
手が触れようがお構いなしだった。
理亜はそうはさせまいと、力強くボールを死守しようとするが、加津地のパワーに負け、ボールを奪われると、あろう事か、理亜の顔面を最後には殴りだした。
「理亜ちゃん!」
すぐ横にいた智古が理亜の元に切羽詰まった表情で駆けつける。
「私はいいから、ボールを」
弱々しい声で智古にそう言う理亜。
智古は奥歯を噛みしめ、「ごめんね」とだけ言い残し、加津地を追う。
加津地が高貴に迫る。
しかし、走りながらリング付近にボールを投げると、そのまま走る勢いは殺さず、なんと、高貴に向けラリアットをかます。
「――うぐ!」
高貴は痛みに耐えられず、呻き声を上げると、頭から倒れる様に仰向けに倒れてしまう。
リングの近くに投げられたボールは、空中でセンターの八鹿が手に取り、そのままリングの中に叩きつけた。
最悪な形でアリウープが決まったにも関わらず、観客たちは熱狂していた。


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