
第十五章 あってないような対価の横行 四話
「そう言えば監督、さっき誰かと話してませんでしたか?」
「……ああ。まあな」
加奈が目の下にできた痣を凍ったタオルで押さえながら、何気なく聞くと、豪真は少し躊躇うかの様に言う。
そこで、豪真は思考を巡らせる。
先程、由紀子が言っていた「肉を切らせて骨を断つ」と言う言葉の真意を。
「ねえ、考えたんだけどさ。ディフェンスは捨ててオフェンスに徹しない?」
「はあ! 何言ってんだ。ディフェンスにも力を入れないと、この点数は縮まらないぞ」
理亜が汗をタオルで拭きながらそう言うと、奏根は眉を顰めて答える。
「ディフェンスを捨てるのは皆だけ。私がディフェンスで止めて見せるから。もちろんオフェンスもないがしろにはしないよ」
優しく声をかける理亜の言葉に奏根たちは、言葉が出てこなかった。
唖然とした様な表情で、ようやく口を開いたのは智古だった。
「理亜ちゃん。いくらラフプレイに慣れてるからって、それは無謀だよ。もし理亜ちゃんに万が一の事があったら。私たち……」
智古は暗い表情でそう言うが、理亜は満面の笑みになる。
「大丈夫。何となくだけど、私なら何とかできそうな気がする。それに忘れてない?」
「ん? 何がだ?」
理亜の言葉に豪真は首を傾げる。
「一回戦。何が何でも勝つんでしょ。私たちはあんな非道な人たちに後れは取らない。ようやく身体もあったまってきたし。ここからだよ」
理亜が力強い眼差しでそう言うと、豪真たちは複雑そうな表情で互いの顔を見合わせると、少し迷いが晴れたような表情で頷き合う。
「……分かりました」
「たくしゃあねえな。そのかわり、お前が危険だと判断したら、俺たちも動くぞ」
「うん!」
加奈が先陣を切って了承すると、奏根が後頭部をぼそぼそと描きながら仕方なく言う。
理亜は元気よく頷くと、第二クウォーターの始まりが告げられる。
ブザーが鳴る。
気持ちを切り替え、気合を入れてコートの中央に戻る理亜たち。
ゼルチャートンソンチームのメンバーたちは、にやけた卑しい笑みでコートの中央にゆっくりと歩いてくる。


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