
第十七章 再び 一話
智古たちも、もちろん心配しながら奏根の後を後続する。
「大丈夫か? 奏根?」
豪真は奏根の言動に怒る事なく、優しく声をかける。
「……ごめん。みんな、ほんと、ごめん」
奏根は泣きじゃくりながら、必死に謝罪の言葉を連呼する。
「棄権するのも手かもな……」
豪真は、これ以上、この試合をやる意味がなくなったかのように思わず口から漏らすように言う。
しかし、その言葉に応える気力すら無くなっていた智古たち。
そこで理亜の心の内で変化が起き始めた。
怒りや憎しみで精神がどうにかなりそうな気がしてならなかった先程と違い、ただ単に見返してやりたい。と言う、純粋な意気込みへと一周してきたのだ。
智古たちは、悔しくなりながら今にでも泣きそうな感じが見受けられる。
「ねえ皆。こんな試合やる価値何てもうないかもしれないけどさ、私やっぱり勝ちたい。あの人たちに、一泡吹かせたい。それに豪真さんも言ってたでしょ? 本当のバスケを教えてやれって」
理亜の真っ直ぐな眼差しの言の葉に、豪真たちは少し肩の力が抜けたような感じがした。
理亜は続けて喋る。
「お願い皆。もう一度立ち上がろう。試合にも勝負にも全部勝って、私たちの意思を、あの人たちに伝えよう。バスケだけでなく、暴力で得られるものなんて、ただの偽りだって事を」
理亜の言葉に、互いの顔を見合わせる智古たち。
そして。
「……ああ。そうだな」
「ええ」
「はい」
「うん」
豪真、高貴、加奈、智古は闘志が戻ったかのような目で力強く頷く。
しかし、奏根は俯いたままだった。
「待っててね奏根ちゃん。絶対勝ってくるから」
理亜は奏根の近くに歩み寄って、優しく言葉をかける。
それでも奏根は、まるで合わせる顔がないような感じで俯き無言のままだったが、俯いたまま軽く頷いてくれた。
それを目にした理亜たちは、少し安堵し、笑みを浮かばせる。
「よし、行こう!」
「「おおー!」」
理亜の力強い声に、呼応するかのように声を上げる加奈、高貴、智古。
そして、四人はいざ、敢行の道を歩き出す。


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