
第一八章 退く力 一話
「のこのこ雁首揃えて戻ってきやがって。どの面下げてあたしたちの前に立てるんだ?」
冷徹な声で理亜たちを睨みつける加津地。
他のメンバーやベンチに居るゼルチャートンソンチームのメンバーたちも、蔑視する様な目で睨みつける。
「好きに言えばいいよ。どっちにしても、この試合は私たちが勝つ。ただそれだけ。そして痛感させてあげる。バスケは他人や自分を傷つけて勝てるほど、甘くないって事。バスケや私たちの仲間を傷つけた貴方たちは絶対に許さない」
声に覇気を込めて口にする理亜。
その眼には、憎しみや敵意と言うものはなく、ただ勝ちたいと言う純粋な願望が込められていた。
「ふん。クズが」
樽子が睥睨しながら唾棄でもするかの様に吐き捨てる言葉を口にし、ポジションに戻っていく。
「さっきはごめんね、高貴ちゃん。私がシュートをし終わった後でも、警戒してたら、今頃……」
理亜は自分のポジションに戻る前に高貴の元に駆け寄り、謝罪していると、かなり暗い面持ちになる。
おそらく、理亜は、高貴が蹴られたのもそうだが、奏根が退場するきっかけを作ってしまった事への後ろめたさなのかもしれない。
それを感じ取った高貴は、にっこりと優しい笑みになる。
「いえ、理亜さんに非はありません。誰がどう見ても、あの方たちの蛮行が発端なのですから。だから理亜さんは、堂々と胸を張り、ご自分の思うがままプレーをなさってください。私たちを桎梏するものなど、ここには居ないのですから」
「……高貴ちゃん。うん!」
高貴の暖かい言葉に目をウルウルさせた後、力強く頷く理亜。
そして、理亜もポジションに戻る。
「では試合を再開します」
どの面下げて審判に徹してるんだ? 見たいな絵面でのうのうと試合の再開を口にする中年の男。
理亜たちは、審判になど目にも触れないように、各々がポジションに戻る。
そして、ゼルチャートンソンチームのボールから始まり、試合は再開された。
点数は三十七対十一で、理亜たちが後れを取っている状態。
しかも、奏根が抜け、四対五で第四クウォーターまで終わらさなければならない。
おまけに、相手はラフプレーでお構いなしに、理亜たちを物理的な攻撃をしてくる。
いつ、理亜たちが試合続行出来ない体にさせられるとも限らない。
非常に理亜たちは不利な状況下でもある。
しかし、理亜たちは挫けてはいなかった。
果たして、この試合の行方は……。


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