
第十八章 退く力 二話
加津地がゆっくりとドリブルして、センターサークルにまで近付いてくる。
他のポジションのメンバーたちは、既に理亜たちのコートに居た。
だが、奏根とマッチアップしていた駒井だけが、加津地と並行してくる。
理亜たちはディフェンスの時も、マッチアップしているゼルチャートンソンチームのメンバーたちの物理的な攻撃を警戒しながら、神経を研ぎ澄ませ、ボールとメンバーの位置を把握していた。
加津地と駒井がパスをしながらゆっくりと近付いてくると、不意に樽子が、智古にボディーブローを入れようとして来た。
智古は間一髪で躱したが、その時にバランスを崩し転倒してしまう。
その隙を見逃さなかった加津地は、すぐに樽子にパスを出す。
パスを受け取った樽子は、フリーでシュートを打つ。
しかし、加奈もフリーだったため、宙を描くボールをジャンプしてはたき落した。
そのボールをいつの間にか体制を立て直した智古が走って、左コーナーに飛んで行ったボールをコート内に叩き戻す。
コートをはみ出し、フェンスにガシャン! と鈍い音を立てて激突した智古。
「智古!」
豪真は心配した面持ちで強く智古の名を呼ぶ。
「っ!」
加奈がすぐにコート内に叩き出されたボールを取ると、ドリブルで敵陣に突っ込む。
すると、前にいた加津地と樽子がダブルディフェンスで加奈を迎え撃つ。
しかし、どう考えても、それはディフェンスする体制に見えず、むしろファイティングポーズの様にも思える。
あからさまにラフプレーする、と言う意思が、加奈にはヒリヒリと伝わってくる。
「加奈ちゃん!」
そこで、理亜が敵陣のコート内で前に手を伸ばし、ボールをパスしてくれ、と合図を送る。
加奈は、加津地たちと接触する前に、鋭いパスを理亜に出す。
パスを受け取った理亜は、スリーポイントシュートを打とうとした。
しかし、後ろから追いついてきた喜多が、理亜に突っ込み、両足で足蹴りしようとした。
それを読んでいた理亜は、シュートモーションからグルリと身体を反転し、喜多が向かっている方向に振り向く。
そこで理亜は、既にジャンプして突っ込んで飛び蹴りしてくる喜多の両足の位置に、ボールを持ち構え、なんと、ボールを盾にして、喜多の両足の攻撃を受けた。
それを目にしたゼルチャートンソンチームのベンチサイドでは驚愕の目を向ける。
その飛び蹴りの弾みで、喜多は後方に吹っ飛んでいき背中から強くコートの下に倒れる。
一方理亜は、ボールを蹴られた弾みで後方、つまり、敵陣のリング側に向け、飛んでいく。
まるで、バク宙するかのように後方に飛んでいき、その距離はリングにまで届いた。
理亜は身体をクルリと捻り回転させ、宙に蹴り飛ばされたまま、リングの中にボールを叩きつける。
ドカン!
「決まったー!」
後方から追いついてきた智古が、両手を上げながらジャンプして喜ぶ。
「ふうー」
豪真は心臓に悪い様な物でも見せつけられていたかの様に、疲れ切った安堵の息を吐き捨てる。


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