
第十八章 退く力 三話
点数は三十七対十四。
すぐに加津地がボールを手にし、理亜たちのコートにまでドリブルして走ってくる。
加奈は警戒しながら待ち構える。
加津地は、センターサークルにまで近付くと、すぐ隣にいた駒井にパスを出す。
右横にいた駒井がパスを貰うと、智古が少し駒井に近付く。
だがそこで、智古とマッチアップしていた樽子が、右ストレートの拳を智古に向け振るう。
智古は紙一重で躱した。
その隙に、駒井がフリーでスリーポイントシュートを打つ。
そこで、高貴がノーチャージセミサークルから走り出した。
高貴とマッチアップしていた八鹿は、突然の事に驚き、後をついていくのが遅れてしまう。
リングに向かって飛んでくるボールをジャンプして掴み取った高貴。
しっかりと両手で手にし、コートに着地すると、加津地が高貴に向け左ストレートを振るってきた。
高貴は咄嗟の判断で、手にしていたボールを盾にし、その攻撃を防ぐ。
弾みで加津地は少し後ずさりでもするかの様に、後ろへ下がる。
「高貴ちゃん!」
そこで、理亜が敵陣コートに向かい突っ走りながら、高貴に声を出す。
すぐに高貴は理亜にパスを出す。
「もしかしたら」
先程の理亜や高貴の敵の攻撃の防ぎ方を見て、これだ、と確信した豪真。
パスを受け取った理亜は、持ち前のドリブルで敵のリングに向かう。
すぐに喜多が追いかけるが、スピードが違うため、追いつけないでいた。
理亜は、ノーマークのまま、スリーポイントラインから高々とジャンプしダンクで決めた。
「「うおおおぉー!」」
観客たちは熱気に包まれたかの様に、雄たけびを上げる。
「ナイスシュートです! 高貴さんも流石ですね」
「えへへへ」
「いえ。理亜さんが防ぐヒントをくれたので、私も及ばずながら加勢出来ました」
加奈が二人を称賛すると、理亜はデレ笑いしながらブイサインをし、高貴はホッとした表情で答える。
点数は三十七対十七。
「ピー! チャージ・タイムアウト! ゼルチャートンソン!」
そこで、審判の中年の男がホイッスルを吹き、チャージ・タイムアウトを宣言する。
ゼルチャートンソンチームのスタメンたちは、呼吸を乱しながら、眉間に皺を寄せている智彦に目を向ける。
どうやら、智彦は危機感を感じ始め、穏やかではいられない状態だった。
チーム全員が各々のベンチに集まる。
パン!
観客の声をかき消すような響き渡る何かを叩く音が聞こえた。
「何をやってる貴様ら! あんな貧弱なチームに立て続けに点を取られおって!」
智彦は激怒し、現時点のスタメンのリーダーである加津地の頬を強く叩いていた。
加津地は、智彦の怒号に撃ち萎れたみたいに、右頬に赤い跡を残したまま、消沈したような表情をしていた。
その様子を不快感を抱いたみたいに一瞥する理亜たち。
「向こうは気にするな。それよりタイムアウトを取る手間が省けたな」
「え? どういう意味?」
豪真は落ち着いた様子でそう言うと、智古が、汗だくになりながらキョトンとした面持ちで聞く。

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