
第十九章 冷めぬ悪夢 一話
「よし、いいぞ」
ベンチに集まってきた理亜たちに拍手をしながら称賛する豪真。
しかし、一方で。
「貴様らいい加減にしろ! あんな悪あがきしかしない弱小チームに対してその様はなんだ!」
智彦がスタメンのゼルチャートンソンチームのメンバーたちを激しく叱咤していた。
メンバーたちは息を切らしながら悔しさと怒りで心が満ちていた。
「ねえ監督。そろそろ私の出番じゃない?」
涼やかな顔でそう言うのは、キャプテンの佐久弥だった。
冷たい目を、同じチームメンバーに向けながら。
「次の試合までお前を出す気はなかったが、止むを得ないか」
鋭い眼差しを理亜たちに向けながら、智彦がそう言う。
そして、各々のチームが、作戦会議をしていると、ハーフタイムが終了する。
チームのメンバーたちはコートの中央に集まると、メンバーチェンジでゼルチャートンソンチームのスモールフォワードの喜多と交代していた佐久弥。
「あの野郎」
そこで、コートにいた佐久弥を見ていた奏根が、憎たらしい思いで、ぼそり呟く。
「では第三クウォーターを始めます! ジャンパーは前へ」
審判の中年の男がそう言うと、高貴が前に出る。
てっきりセンターの八鹿がジャンパーになるかと思いきや、不敵な笑みで前に出てきたのは、なんと、佐久弥だった。
高貴は何故か嫌な予感がした。
理亜たちも今まで以上に警戒する。
そして、審判の笛の音でボールが宙に舞う。
そのボールが最高到達点に達すると、高貴と佐久弥が跳躍する。
「うぐっ!」
そこで、事件が起きた。
なんと、ジャンプしている最中に、佐久弥が高貴の腹部目掛け右手でボディーブローを入れた。
強く叩きこまれたその拳に、思わず呻き声を上げ、成すすべなく、腹部を抑えながらコートの下に受け身も取れず、横たわってしまう高貴。
「高貴ちゃん!」
それを驚愕して見る事しか出来なかった理亜たち。
佐久弥は、何の罪悪感も感じないまま、ボールを弾くと加津地が受け取る。
理亜たちは試合どころではなく、すぐに高貴のもとに駆け寄る。
もちろん、今更になって、審判の中年の男が笛を吹くはずもなく、試合はそのまま続行される。
フリーのまま、レイアップシュートを決めた加津地。
点数は四十二対三十一。
その様子を見て、智彦が悪辣的な笑みで微笑む。


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