
第二十章 意地 二話
エンジョー、フウー、エンジョウ―ビター。
豪真はと言うと、理亜の超人越えのシュートを見て、両手を広げのけぞる様な体制で、ご満悦の表情をし、脳内の中で、またオペラ歌手が歌うような詩のフレーズが脳裏を過りながら悦に入っていた。
「……監督」
その様子を呆れて見ていた奏根。
「なぜブロックできない! この役立たず共が!」
智彦が頭に血が上ったかのように激怒していた。
理亜はコートに降りると、ボールを佐久弥に投げて渡す。
佐久弥は鋭い眼差しで理亜を睨みつけると、黙ってエンドラインに行き、加津地にパスを出す。
すると、すぐに佐久弥は理亜を殴りかかろうと理亜に走ってきた。
理亜は佐久弥を警戒していたため、コートを走り回り、佐久弥の攻撃を回避する。
他のゼルチャートンソンチームのメンバーたちも加奈たちに狙いを絞り、拳を振るおうと迫ってくる。
加奈たちも走り回って逃げる。
逃げ回ると言っても、理亜たちのコート内で。
その方が、佐久弥たちのシュートを防げるための範囲以内にいれば防ぎようがあるからだ。
その隙に、加津地がドリブルし、理亜たちのコートに足を踏み入れる。
そこで、加奈が駒井から逃げ回りながらも、加津地に近付く。
加津地は自分がフリーだと思い込んだまま、フリースローを打つ。
そこで背後から迫っていた加奈が、ジャンプし、宙に舞うボールを奪う。
「なに!」
ボールを奪われ加津地が動揺する。
加奈がボールを持った瞬間、理亜たちは佐久弥たちのコート内に入り、そこで逃げながらも加奈のパスを待つ。
加奈は加津地と駒井の右横にポジションを移動すると、全力投球で昨夜たちのコートに向けボールを投げる。
そのボールは、ギョッとした加津地と駒井の顔面の横を、空を切る様に通り過ぎ、丁度、右に居た高貴にまで飛んでいく。
それを視認した八鹿が高貴の前に出て、高貴を追いかけまわすのを止め、ボールを受け止めようとする。
しかし、そのボールはギュルルといった音を立てると、左にぐにゃりと曲がる。
曲がった先は、智古が居るサイドにだった。
智古は加奈が曲がるパスを出すことを予測していたため、左斜め前に出るように逃げ回るふりをしていた。
計算してパスを受け取った智古。
その智古に樽子が左ストレートの拳を叩きこもうと、左拳を振るう。
しかし、智古は両手にしているボールを盾にし、樽子の拳を弾き返す。
樽子は反動で背中から倒れてしまう。
その隙に智古がスリーポイントを打とうとしていた。
シュートフォームに入ると、そこで佐久弥が智古に突っ込んできた。
佐久弥は既に、ジャンプしている智古に対し、飛び蹴りを食らわそうと攻撃モーションに入っていた。
そのタイミングは正に絶妙で、シュートを打つ寸前に攻撃が当たってしまうと言う場面だった。
そこで智古はギョッとした表情になる。
今からボールを盾にしても間に合わないと判断した智古は、フリーになっている理亜にパスを出す。
左サイドのペイントエリアにいる理亜は自分にパスが来ると思った瞬間、悟った。
間違いなく佐久弥の攻撃は智古に当たってしまう、と。


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