
第二十章 意地 四話
そこで佐久弥は不敵な笑みになる。
シュートモーションで跳躍していた佐久弥は、なんと片手にボールを持ち替え、全力でボールを投げつけた。
その相手は正に佐久弥に、あと一歩で追いつこうとしていた理亜の顔面。
理亜は咄嗟に判断できず、もろに顔面にボールが直撃してしまう。
「うぐ!」
「理亜さん!」
理亜は呻き声を上げながら後方に倒れると、高貴が切羽詰まった表情で声を上げる。
理亜の顔面を弾んだボールは最悪な事に再び佐久弥の手に渡る。
宙で手にしたボールを佐久弥はそのままパスかシュートを打つかと思いきや、一度コートの下に着地し再びスリーポイントシュートを打つ。
そこで、加奈が全力疾走で佐久弥の放たれた宙に舞うボールをブロックしようとジャンプする。
しかし、加津地は本来のバスケのオフェンスから物理的な暴力に切り替えていたため、加奈の行動を見逃さなかった。
加津地はジャンプした加奈の右足首を掴み、コートの下に顔面から叩きつける。
ドゴッ!
鈍い地響きのような音が会場中に鳴り響く。
「加奈ちゃん!」
智古がギョッとした表情になる。
佐久弥が打ったボールは決まってしまった。
これで点数は四十七対三十六。
十点差まで放されてしまった。
すぐに理亜たちは加奈の元に駆け寄る。
「加奈ちゃん! 大丈夫⁉」
理亜が賢明に加奈の名前を呼ぶ。
「……ええ。なんとか」
加奈は叩きつけられる直前に、鼻辺りを手で塞ぎ、ダメージを軽減していたため、鼻血などは出していなかった。
その事に理亜たちは少しホッとする。
しかし、奏根は悔しそうに見ている事しか出来なかった。
仮にも退場させられているため、コートに足を踏み入れられる事が出来ない。
豪真も加奈の元に走ってくると、大事がないか確認する。
「致命傷ではないな。だが……」
苦悶の表情で理亜たちを見る豪真。
どうやらこのまま試合を続行して本当にいいのか躊躇してしまっているようだ。
一方的に傷つけられる試合を見たら誰だって同じ気持ちになるだろう。
「早くボールを出せ!」
そこで、審判の中年の男が眉を顰め怒鳴りつける。
「豪真さん。大丈夫。見てて」
そこで、理亜は豪真を心配させまいと優しく声をかける。
豪真は渋々納得し、ベンチに戻ると、高貴が落ちているボールを手にしエンドラインにまで走る。
試合は再開され、高貴が加奈にパスを出す。
パスを貰った瞬間、加津地が加奈を殴りかかる。
自分のコートに居もせず、既に切羽詰まったディフェンスをするゼルチャートンソンチームのメンバーたち。


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