
第二十章 意地 五話
加奈はロールターンで右に躱すと、すぐに片手でパスを出す。
振りかぶって投げた先は理亜だった。
佐久弥と駒井が既にダブルディフェンスでいたが、それはもうディフェンスではなく、ただ単に、理亜を再起不能なまでに痛めつけるとするような邪悪な意気込みで、理亜の顔を挟むようにした裏拳を放つ。
理亜はバックステップで躱し、ボールを受け取ろうとしたが、そのボールは左に曲がり、智古の所に向かっていた。
逃げ回りながらも計算してパスを受け取った智古は先程から何度も拳を振るってくる樽子を左サイドから抜こうと、姿勢を低くし、ダックインの体制で、樽子の右拳を躱し、抜いた。
左コーナーのスリーポイントラインからシュートを打とうとした智古。
だが、目の前には佐久弥が迫っていた。
佐久弥は渾身の拳を智古の腹部目掛け振るおうとした。
智古は警戒も危険意識も捨て去り、シュートを打つことだけに集中する。
「駄目です智古さん! ボールを盾に!」
そこで、高貴が危険を察知し、智古に自分の身を守れと要請する。
しかし、捨て身の攻撃の様に、ダメージを負おうとも、シュートを決める、と言う決意の眼差しでシュートを打った智古。
奏根や豪真も息をのむ様に見守る。
打たれたシュートを綺麗なアーチを描いていた。
ボールが宙に舞う中、佐久弥の力強い拳は、智古の腹部に当たってしまい、三メートルは殴り飛ばされてしまった。
そして、シュートは見事決まる。
四十七対三十九。
しかし、智古はダメージが大きかったせいか、上手く立ち上がれずにいた。
「智古さん!」
高貴が大慌てで駆けつけると、理亜たちも同じく駆けつける。
心配しながら声をかけていると、不意にボールの弾む音が聞こえてきた。
なんと、審判はレフリータイムも取らず、そのまま試合を続行させ、加津地がドリブルで理亜たちのコートに走って向かっていった。
「私はいいから。早くディフェンスを」
食いしばりながら悲痛な表情でそう言う智古。
理亜たちは断腸の思いで「ごめん」と言い残し、加津地たちを追った。
なんとか加津地の前に出れた加奈。
しかし、樽子と駒井が二人係で加奈の両手を掴み取った。
加奈は身動きが取れず困惑する。
大の字にさせられた加奈の前で加津地は「そんなにボールが欲しけりゃくれてやるよ」と不気味に微笑みながら剛速球で加奈の顔面にボールを投げ、ぶつけた。
「うぐっ!」
痛みで呻き声を上げる加奈。
鼻血も出てしまう、もしかしたら鼻も折れているのでは? と思うほど強烈な投げ方だった。
理亜と高貴は必死になって加奈の元に走る。
「足元がおろそかになってるぞ」
理亜と高貴のすぐ横についていた佐久弥と八鹿が不敵に微笑みながら理亜と高貴の足を引っかける。
俯せになるようにコートに倒れてしまいそうになったが、片手で受け身を取り闇雲に加奈の元へ走り出す。
加奈は最後に駒井と樽子に腹部を蹴られ後方に転倒する。


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