
第二十章 意地 六話
加奈の顔面から弾んだボールを手にした加津地はリングに向かいボールを投げる。
狙いはアリウープだった。
八鹿はリングの所でボールを手にしようと、リング前でジャンプする。
しかし、正面で宙に舞うボールを見過ごすほど、理亜は甘くない。
理亜は跳躍したが、その背後には佐久弥がいる。
佐久弥はジャンプした理亜の片足の足首を右手で掴もうとした。
だが、不屈の闘志で鼻血を流しながら、加奈が佐久弥にスクリーンをかける。
「汚ねえ血で私に触れるな!」
「いっ!」
佐久弥は身体を張って止めようとして来た加奈の右頬を、右拳で裏拳する。
殴り飛ばされた加奈は流石にもう起き上がれなかった。
チャンスを作ってくれた加奈の無念を少しでも晴らそうと、宙に舞うボールを掴み取る事が出来た理亜。
宙でボールをキャッチした理亜はなんと、敵チームのコートに向けボールを強く投げる。
その先に居たのは高貴だった。
高貴は足を引っかけられた後、すぐに体制を整え、敵チームのリングの下にまで走っていた。
相手を傷つける事にしか目に入ってなかった佐久弥たちは墓穴を掘っていた。
だが、高貴を視野に入れていた駒井だけが高貴の後を追っていたのだ。
高貴はすぐ後ろに迫っている、駒井など警戒しながら空中でボールを掴み取る。
駒井はそのタイミングで高貴の足首を掴んだ。
すでにリングの上でキャッチしていたボールをリングに叩きこむと同時に駒井も力強く高貴の足首を下に引きつける。
二人の力が合わさり、リングに叩きつけられた時の力は計り知れないもの。
アリウープが決まったと同時に、リングを支えていた、スタンドが折れ、リングとバックボード事、下に落ちる高貴。
輪っかを掴んだまま、高貴はバックボード事、下に転倒してしまった。
ガシャン!
耳障りな音を立てて見るも無残な残骸になってしまうリング。
駒井は落ちてくる寸前に後ろに下がって無傷だったが、果たして、高貴は無事なのか?
どよめく観客たち。
豪真や奏根、理亜に加奈と智古がとんでもない一大事な事に気付き、居てもたっても居れず、高貴の元に走り出す。
「高貴!」
高貴の元に着いてすぐに豪真が目にしたのは、奇跡的に無事だった高貴の姿だった。
高貴は俯せになりながら、リングの輪っかを握りしめたままだった。
「高貴ちゃん! しっかりして!」
理亜たちが高貴に声をかけながら上体をゆっくり上に起こす。
「……大丈夫です」
高貴は鼻血をポタポタ出しながら、呼吸を乱しながら辛そうに答える。
「リング破損のため、一時試合を中断します!」
そこで審判の男はレフリータイムなど一切口にせず、ただリングの代用品を運ぶための中断を宣言してしまう。
これで点数は、四十七対四十一。
「とにかく皆、治療だ」
豪真は憂慮しながらそう言うと、理亜たちは一度ベンチに戻る。
観客たちは相変わらず、何の不信感も持たず騒ぎ立てている。
ゼルチャートンソンチームでは智彦が冷徹な眼差しで選手たちを睥睨する。
「……分かっていると思うが、一回戦なんかで負ければ、貴様らに未来はない。この意味は当然、視野に入れているな?」
「「……はい」」
智彦の侮蔑するような声音に、加津地たちは暗い面持ちで頷く。
「佐久弥、お前が出てからと言っても大した結果は挙げていない。にも拘らず、あんな奴らを陥れる事すらも出来ぬとは。不良品なのか? お前は?」
「……いえ」
蔑みながらそう言う智彦の言葉に、佐久弥は怨嗟の炎を心の内に燃やしながら鋭い眼差しで口にする。
どす黒い何かが蠢いているのは明白だった。


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