
第二十一章 痛みを超えて 四話
ボールが宙にほおられ、理亜と佐久弥が一斉に跳躍する。
佐久弥は案の定、宙にあるボールになど目もくれず、理亜の顔面を殴りにかかる。
しかし、理亜はなんと、佐久弥の顔面すれすれに、アッパーカットを瞬時にいれた。
佐久弥はギョッとし、思わず身を後ろに傾ける。
もちろん、最初から当たるはずもない理亜の攻撃だったが、理亜はアッパーカットしたその手で、宙にあるボールを弾き飛ばす。
弾かれた先に居たのは、智古だった。
智古は速攻で、すでにリング下にいた高貴に鋭いパスを出す。
リング下で受け取った高貴は、ダンクで決めた。
これで点数は四十七対四十七の同点に追いついた。
「くそっ!」
佐久弥が苛立ちながら、ポイントガードの瑠偉にパスを出す。
瑠偉は、睨みつける様に、ドリブルして理亜たちのコートに向かう。
「はあー、はあー」
理亜たちは、ゼルチャートンソンチームの物理的な猛攻に逃げ回っていたが、明らかに体力が限界に近い状態だった。
そこで、佐久弥がボールを貰う。
他のゼルチャートンソンチ―ムのメンバーたちは理亜たちを、ただ単に殴ろうとするのではなく、ボールに近づけさせない様、左右の両端に追い詰め、佐久弥の両端で身構えていた。
両端に追い詰められた理亜たちは、ボールに近付く事が出来ないと察してしまう。
そのまま、佐久弥がニヤニヤ笑いながら、スリーポイントシュートを打つ。
そのシュートは決まり、豪真と奏根は悔しい表情をしていた。
これで点数は、五十対四十七。
智古は落ちているボールを手に取ると、すぐにエンドラインから加奈にパスを出す。
すると、すぐに佐久弥たちが、理亜たちに襲い掛かる。
理亜たちは敵陣のコート内で走り回りながら逃げていると、加奈に瑠偉と亮が向かってくる。
加奈はまっすぐ走って向かってくる敵に対し、左サイドに向かいドリブルする。
釣られるように向かってきた瑠偉と亮。
そこで、加奈はうかつに近付かず、ある程度の距離まで引き付けると、左前で佐久弥から逃げ回っている理亜に向かい、力強く片手でパスを出す。
それに気付いた佐久弥は、また加奈が曲がるパスを出すのでは、と思い、咄嗟に右側まで走り出した。
そこには智古の姿が。
智古は向かってきた佐久弥の更に斜め前右に走り出す。
その後を妙子も追う。
高貴は敵陣のゴール下付近で周遊から逃げ延びていた。
佐久弥は自分より前に出てボールを貰おうとする智古に対し、横から右足で蹴り上げようとする。
しかし、智古はそこでニヤリと笑う。
横蹴りが入りそうな瞬間、リターンして左サイドに向け走り出した。
空振りで終わったその時、加奈が投げたボールは曲がらず、そのまま真っ直ぐ理亜の元に向かってきて、理亜はパスを受け取ると、スリーポイントシュートを打つ。
見事決まり、これで同点の五十対五十。
観客は拮抗する対決に手に汗握ると言った感じだった。
「ちっ!」
佐久弥はまんまと釣られたことに苛立ち、強く舌打ちをする。
すぐにゴールが決まると、理亜たちは自分たちのコートに戻り、その後を追ってくる亮たちから逃げ続ける。


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