
第三章 暗殺者の悩み 四話
理亜は学校に行く支度を済ませ、午前、七時四十分に家を出ようと玄関まで車椅子で移動する。
「じゃあ行ってくるね」
「気を付けて行くんだよ」
理亜が元気よく家を出ようとしたその時、郁美が玄関まで見送ってくれた。
車椅子のハンドリムを握りながら、器用に扉を開けアパートを出ようとする。
郁美は毎日一人でいけるか心配になり、気が気ではなかった。
学校まで送ろうとしても、理亜が自分の手で学校に行きたい、と言うので、助力できなかったのだ。
「姉ちゃん。途中まで送ろうか?」
「いいよ。明人だって学校あるでしょ。早くしないと彼女が怒っちゃうよ」
明人が部屋から駆け足で玄関に着くと、理亜にそう言うが、理亜は自然に返しながらも、最後は意地悪そうな笑みで、明人を弄る。
「だから居ないって」
明人は少し慌てながら否定する。
理亜と郁美は、そんな明人を見て微笑していた。
「理亜ちゃん!」
「あれ? 文音ちゃん⁉」
玄関を出てすぐ、理亜の同級生である、古(こ)代(しろ)文(あや)音(ね)が元気いっぱいな様子で姿を現す。
茶髪のロングヘアーで、上品な顔立ちをしている。
ちなみに、文音は理亜がバスケットボールのキャプテンを務めていた時には、副キャプテンをしていて、理亜が引退した時には、キャプテンを務めている。
理亜は突然の大親友の登場に驚く。
「おはよう。――てっ、理亜ちゃん……足⁉」
そこで、文音はブレザー姿の、理亜の右足に、何となく目を向けると、靴が履かれていて、スカートから出ている素肌に目をギョッとさせ、驚愕する。
「ああこれ。実は昨日、義足付けて貰ったんだ。詳しい事は歩きながら説明するね」
理亜は自分の右足を見ながら流暢に語る。
「やったわね理亜ちゃん!」
文音は嬉しすぎるあまり、居てもたっても居れない感じで、理亜に飛びつき、強く抱きしめる。
その眼には大粒の涙が流れていた。
「うん。ありがとう」
理亜は慈しむ様に、文音の頭を撫でて、感謝の言葉を口にする。
そして、二人は砂川高校に向かって行く。
理亜は、義足を付けて貰った事の軽油を文音に説明していた。
「へえ。随分変わったお医者さん? に出会ったのね」
「うん。最初は変人だと思ったけど、話していく内に、人情身ある人だったよ」
文音は豪真が医者なのか半信半疑みたいなイメージしかなかった。
ただ、理亜に義足を無料で付けてくれた豪真には、感謝してもしきれない思いでもある。
「そうだ理亜ちゃん。お祝いも兼ねて、今度、スイーツでも食べに行かない? おごるわよ……クラスの皆が」
「なんか申し訳ないな。て、文音ちゃんおごるんじゃないんかーい」
文音のボケに、のりつっこみする理亜。
二人は笑いながら会話を続ける。
「とにかく今度、スイーツ食べに行きましょう。なんたって砂川はスイーツロードなんだから」
「うん、そうだね。それにしても文音ちゃんのスイーツ好きは相変わらずだね」
「ええ。もちろん」
スイーツに目がない文音は目をキラキラさせていた。
それだけではなく。文音は痩せの大食いでもあり、スイーツだけでなく、食べ物全般好きなのだ。
活発な面は理亜と似ていた。
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