
第二十一章 辿り着いた頂き 一話
センターサークルで瑠偉は加奈を抜くため、左からレッグスルー、ロッカーモーションと言ったドリブルをしてくる。
加奈は呼吸を乱しながらも、神経を張り詰め、瑠偉の動き全体を観察する。
瑠偉は加奈から伝わるプレッシャーに耐え切れず、思わず、右拳を加奈の顔面に叩きこもおとした。
加奈は腰を落とし、その攻撃を回避する。
そこで、瑠偉はサイドハンドパスをする。
その右の先には、亮が居た。
亮はそれを受け取ると、スリーポイントシュートを打とうと、ジャンプする。
理亜がそうはさせまいと、佐久弥を振り切って、亮の前まで走り、跳躍する。
完全にブロックさせられると察した亮は、すぐ近くまで、理亜の後を追ってきた佐久弥にすぐさまパスを出す。
フリースローラインからそのパスを受け取った佐久弥はジャンプしてフリースローシュートを打つ。
宙に舞うそのボールを、高貴がブロックしようとしたが、周遊が、左拳を高貴の頬に向け振るってきたため、回避にしか頭が回らず、ブロックする事は出来なかった。
そのシュートは決まってしまい、五十二対五十二の同点になってしまう。
「人数の差が出てきたな。ラフプレイでこのまま追い込んでいけば、クククッ」
智彦は不敵な笑みで口から悪臭を放っていた。
「くそ、このままじゃ」
「……みんな」
豪真と奏根が、苦虫をかむ思いで現状を重く受け止めていた。
理亜たちは、少しの休憩も許されず、高貴が加奈にパスを出し、そのまま敵陣のコートにドリブルして走っていく。
瑠偉は、加奈から強引にボールを奪おうと、懐に入ってきた。
それをロールターンで右に躱した加奈は、すぐに智古に片手でパスを出す。
強く投げられたそのパスに、佐久弥が「うかつにそのボールに近付くな! 曲がるかどうかわからない!」と激を飛ばす。
その言葉に瑠偉たちは従い、ボールではなく、理亜たちに的を絞り、攻撃し続ける。
その攻撃を躱しながら、智古がボールを貰おうとし、妙子が猛攻撃をし続けたが、智古は殴られる事を覚悟で、加奈のパスを受け取った。
パスを受け取った瞬間、妙子の蹴りが、智古の横腹に当たってしまう。
痛みを堪えながら、智古はドリブルでリングの下に向かう。
そこで、高貴がいつでもパスを受け取れるように、ゴール下で優位なポジションを確保しようとしていた。
しかし、周遊がそうはさせまいと、何度も高貴の横腹に拳を叩きこむ。
口から吐血でもするんじゃないか? と思うほどの猛攻。
「ぐっ! うぐ!」
それを、歯を食いしばって耐える高貴。
智古はすぐにリングの下にいる高貴にパスを出す。
それを受け取った高貴は左にフェイントを入れると、周遊が釣られ、思わず、ジャンプしてしまった。
その隙を見逃さなかった高貴は、右にロールターンし、ゴール下からジャンプしてシュートを打つ。
しかし、佐久弥が近付いていて、そのボールは背後から叩きつけられた。
理亜は、佐久弥とマッチアップしていたが、同時に、奏根とマッチアップしていたシューティングガードの選手を同時に相手にしなければならない。
おまけに奏根が抜けてから、ほとんど、理亜にはダブルチームがついていた。
理亜は佐久弥をスクリーンアウト出来ず、今の結果になっているのだ。
佐久弥が叩いたボールは、リングのボードに当たり、弾みで後方へ飛んでいく。
そのボールをすぐにキャッチしたのが、周遊だった。
「速攻だ!」
周遊が声を荒げそう言うと、ゼルチャートンソンチ―ムのメンバーたちは、すぐに理亜たちのコートに向け走り出す。
周遊が理亜たちのコートにいる、亮にパスを出す。
理亜たちは追いかけたが、体力も限界を超えていたため、思うように走れず、パスを受け取った亮はスリーポイントシュートで決めた。
点数は五十五対五十二。
三点差を付けられ、理亜たちは絶望に近い状態だった。
しかし、智古が「皆! まだまだこれからだよ!」と、気合の入った声で、理亜たちを鼓舞し、奮起させる。
理亜たちは「うおおーー!」と怒号の雄たけびを上げ、自らを奮い立たせる。
「ちっ、どこまでしぶといんだ」
その様子を間近で見ていた佐久弥は、反吐が出る様な目つきで嫌味を口にする。
残り時間は三分を切っていた。


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