
第二十三章 思わぬ展開 一話
理亜が運び込まれた医務室では、理亜は点滴を打たれ、人工呼吸器が口に付けられていた。
豪真たちは、心配そうな表情で、理亜の顔を見つめている。
「安心してください。今は脈は正常ですし、呼吸も安定してきています。ただ、試合で無理をし、身体能力が一時的に低下し衰弱していましたが、すぐに快方に向かうでしょう。まあ、快方に向かうと言うのは少し大げさですが」
白衣を着た年配の医師が、穏やかな表情で、淡々という。
「皆、この医師の言う通りだ。私の目から見ても、理亜は大事無い。試合で無理をした状態で、エクストラロードを使った、後遺症のようなものだ」
「エクストラロード?」
豪真が奏根たちの方に振り向き、先程よりも落ち着いた様子でそう言うと、智古たちは首を傾げる。
「エクストラロードと言うのは、ペナルトギアがオーバーロードし、臨界点を突破した状態の事を指す。言わば、リミッターが外れたような状態だ。その状態になると、異世界の様な異能を手にする事が出来る」
「え! 異能⁉」
「ああ。個々によって異なるがな」
豪真の説明に、奏根たちは驚愕する。
そして、豪真は再び理亜に目を向ける。
顔も青ざめておらず、どうやら本当に大事無いと言った感じだった。
すると。
「……あれ、み……んな?」
「――理亜さん⁉」
意識を取り戻した理亜が、呼吸器越しから、うっすらと目を開ける。
高貴がいち早く気付き声を上げると、豪真たちも理亜の名を口にする。
「試合は……どうなったの?」
少し細い声でそう聞く理亜だったが、豪真たちは俯きながら黙り込む。
「……すみません、理亜さんばかりに負担をかけた挙句、私たちは、何もできず……」
加奈の涙を堪えて口にする言葉に、理亜はその答えを察してしまう。
「……皆のせいじゃないよ。結果がどうであれ、私たちは最高のチームに変わりないよ。今日、皆と試合出来て、本当に良かった」
そう言う、理亜の表情は、憂いも後悔も一切ない様な、晴れやかや表情をしていた。
それを目にした、智古が思わず泣いてしまうと、「泣くなよな。この中で一番足を引っ張ったのは、俺なんだからさ」と、釣られるように泣いてしまう奏根。
加奈と高貴も俯き、奥歯を噛みしめる。
「ねえ皆、約束忘れてない?」
「え?」
大分体調も良くなった理亜は、いつも通りの感じで、皆に微笑みながらそう聞くと、全員は、目元を赤くさせながら、どういう意味か分からなかった。
「ほら。や・き・に・く♪」
理亜は満面の笑みで意地悪そうにそう言うと、豪真たちは素っ頓狂な表情から一変して大声で笑い出す。
「アハハハッ! 理亜ちゃんらしいね」
智古も笑顔に変わり、場は、とても和やかで明るく満ち始めたのだ。


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