
第二十三章 思わぬ展開 二話
その頃、智彦たちは、ご満悦の表情で、コートを去り、控室で帰り支度をすると、部屋を出て、ロビーに出ようとした。
「まあ、この底辺で躓いているようじゃ、お前らの先行きが不安と言う懸念もあるが、今回は良しとしよう。二回戦では、あのようなへまはするなよ」
「はい」
智彦が憎たらしい笑みでそう言うと、佐久弥が平常心で答える。
通路を歩きながら、加津地たちは「あいつらの負け顔見た? あれは傑作だったよね」「ああ。偉そうにほざいていながら、あの理亜ってやつは最後、失禁でもしたのか? てぐらい、無様な最後だったよな」「ええ。おまけにキャプテンのあの貧乳女なんて、何も出来ず、ただ泣きわめいてただけで、滑稽にもほどがあるよ」と、理亜たちを侮蔑していた。
「その辺にしとけ。次の試合であんな弱小チームの事なんて引きずってたら、足元をすくわれるぞ」
「はいはい。分かったわよ。ま、あんな雑魚に構ってたら、次の試合で墓穴を掘りそうだしね」
佐久弥が、キャプテンらしい様な口ぶりで、加津地たちを止めると、妙子がなんの悪気もないように、平然とした様子で口にする。
誰もが不快感を持つような光景だ。
だが、そんな愉悦に浸っている智彦たちの前から、何者かの足音が聞こえてきた。
「ん?」
智彦が怪訝な面持ちで、受付のフロントに繋がる、正面の扉からの黒い影、照明から姿を現したのは、銅羅だった。
智彦たちは、何か言いたげな銅羅の顔を見て、思わず足を止めてしまう。
「智彦さん。今回の試合で、何か手応えはありましたか?」
銅羅は涼しい表情でそう聞く。
「……これはこれは、銅羅さんではありませんか。まあ今回の試合では少々意表を突かれましたが、私の視座は誤っていない事が再認識されたのが収穫と言った所ですかな」
智彦は下手に出る様にして、頭をヘコへコ下げながら喋る。
智彦にとって、クリプバの大会運営員会の会長は、自分の社長に等しい存在。
だからこそ敬語で喋るのだ。
しかし、腹の奥底ではいずれ、銅羅の座を奪うと言う、野心があった。
そんな智彦の言葉を聞いた銅羅は、表情を一切変えず淡々と話し始める。
「そうですか。それは何よりの収穫ですね。貴方程の器だと、今の言葉が嘘偽りない事が伺えます」
「ええ。それはどうも」
智彦は両手をもみもみさせながら、下卑た笑みで答える。
「いずれ銅羅さんのチームと対戦できる事を心の底から願っています。では私たちはこれで」
部下が上司にゴマすりでもするかの様な笑みで、会話を切り上げた智彦は、そそくさと銅羅を横切ろうと歩き出そうとした。
智彦たちは銅羅を横切る際、佐久弥たちが、銅羅に会釈する。


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