
第二十三章 思わぬ展開 五話
それを目にした明人は、佐久弥にも佐久弥なりの事情がある事が思い浮かんでしまう。
「……一つ聞きたい。お前に今回の試合で、贖罪の意思はあるのか?」
明人は狙いを定めながら、微動だにせず、口だけを動かす。
「そんなの分かんないよ。今までして来た事は、確かに悪い事だって事ぐらいは、私にだって自覚はある。でも、気付いて、謝りたくても、もう遅いんだ。私の手は、もう汚れてる。取り返しがつかないんだよ」
胸の内を吐露した佐久弥。
泣きながら喋る佐久弥の言葉には嘘偽りがなかった。
恐怖を目の当たりにしている人間が、虚言を吐くのには、相当の修羅場を掻い潜る必要がある。
だが、佐久弥にはその経験がない事は、明人には分かっていた。
今まで、どぶの掃き溜めのような人間ばかり見てきた明人の目には、佐久弥はまだ、更生の余地があると踏んだ。
「……お前は今まで見てきた悪党の中では、まだ更生の余地がある。まずは、今まで傷つけた人たちに謝罪する所から始めろ。いずれは胸を張って日に当たれ」
明人はそう言い残し、銃を下げ、佐久弥に背を向け、その場を去っていく。
佐久弥は恐怖から解放されたが、今まで培ってきた罪悪感が、一気に押し寄せてきたかのように、その場で膝をつき、大泣きしてしまう。
明人は背後から聞こえてくる、佐久弥の鳴き声を、心の中に刻み込んだ。
「一人、見逃したようだね」
少し先を歩くと、銅羅が通路の横の壁に背を持たれつけながら、涼しい表情でそう言う。
「何か問題でもあるか?」
「いや、特にないよ。ただ君らしくないと思っただけだ。悪党とならば容赦なく殺戮する君の思想にね、と」
「勘違いするな。俺はただ更生するに値すると判断したまでだ。最重要のターゲットは始末した。それだけで問題なかったはずだが、何故選手まで手にかけなければならなかったんだ?」
明人が訝しい目で銅羅を見ると、銅羅は肩をすくめる。
「あったさ。彼女らはあの豚に反旗を翻す根気が欠落していた。抗うよりもその身を奴に委ねる事を選択した。私の神聖なステージを奴らは汚し、冒涜した。万死に値するよ」
銅羅はゆっくりと、体を起こしながら、淡々とそう言う。
明人は、やはり銅羅に対して懸念を抱いていた。
このまま奴の命令に従うままでいいのか? と。


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