
第二章 暗殺者の悩み 六話
そこからは、意気投合して、理亜を数十名で胴上げした。
天井ギリギリまで付くんじゃないか、てくらい高く。
「「ワッショイ! ワッショイ!」」
暖かく、そして、熱気と活気に満ち溢れた砂川高校の生徒たちだった。
「「ワッショイ! ワッショイ!」」
「アハハハ! て、何で明人が居るの⁉」
理亜は、胴上げしている人の声の中に、自分の弟の声が混じっているのを耳にすると、驚愕して下を見る。
「あら明人ちゃん。今日もかっこいいわね」
胴上げを終え、文音が明人につま先立ちで近付き、笑顔で明人の頭を撫でる。
「どうもありがとうございます。それより姉ちゃん。弁当忘れてったよ」
「あ! そうだった! ありがとう明人」
明人は、文音に礼儀良く軽く会(え)釈(しゃく)し、理亜に近付き、ピンク色の風呂敷を渡す。
理亜はうっかり忘れていたことに驚くと、笑顔でお弁当の入った風呂敷を受け取る。
「なあなあ明人。高校どこに行くか決めたか?」
男子生徒の一人がフレンドリーにそう聞いてくる。
「いえ、まだです。僕も一五だから、そろそろ決めないといけませんが、中々決まらなくて」
「そうか。まあゆっくり決めてもいいんじゃないか? 人間、時は宝なり、て言うだろ。時の経過はどんな形でさえ、お前に宝物を与えてくれるさ」
明人の悩みにクールに決める男子生徒。
「それ、時は金なりでしょうに」
「「アッハハハ!」」
良い事言ったつもりだったが、理亜に呆れられながら突っ込みを入れられる男子生徒に思わず、クラスメイト全員が高笑いする。
しかし、明人だけが空笑いでもしているかのようだった。
そして、明人が「それじゃあ失礼します。姉を宜しくお願いします」とまるで、母親目線でそう言うと、理亜が頬を紅潮させながら「もおー!」と少し不貞腐れていた。
それを見て、暖かく笑う生徒たち。
明人は、石山中学校に通っていて、そこでは女子はもちろん、男子にも人気だった。
なぜなら明人はイケメンで気が利く上、優しいからだ。
理亜や明人が授業を受けている時、ある場所でこんな話をしていた。
「富(と)芽(め)銅(どう)羅(ら)さま。あの男はこの先も使えるんですか?」
「ああ。奴は早(そう)老(ろう)症(しょう)だが、腕は確かだ。信用もできる。稚(ち)気(き)な分、純粋だしな」
銅羅と言う男の秘書を務めている黒いスーツで短髪の中年の男が、とある人物の信用性を疑っていた。
赤いスーツを身にまとい、モヒカンヘッドで、すらっとした体形の高貴な顔立ちをした若い男。
その男、銅羅は葉巻を吹かしながら、広い部屋で赤い絨(じゅう)毯(たん)が敷かれている、部屋で不敵な笑みを浮かべていた。
豪華な内装に、銅羅の後ろは壁がない窓ガラスで覆われ、高級なダイニングチェアの椅子に背もたれながら、テーブルの上に置いてある灰皿で葉巻を消す。
「ウェルナー症候群ですよね。任期があと一か月。その時までこの仕事に従事していれば十億円を用意すると。本当に差し出すんですか?」
「時が来れば分かる。最高の終焉を私たちは黙認できるのだから。あの冷酷な女(め)狐(ぎつね)に目にもの見せてくれるわ。それにあの男の一家は、貧困とまでには言わないが、食っていくのがやっとだ。金をちらつかせさえすればこちらの意のまま」
秘書の男の言葉に、銅羅は寡(か)欲(よく)など微塵も感じさせない貪欲な笑みでそう言う。
「伝説の殺し屋にして、私たちの組織、網(もう)羅(ら)聖(せい)トップ、サイレントトップアサシン。彼女が組織で設けたルールはたった一つ。強者の命に従うこと」
「ああ、そうだ。あの女が居るからこそ、私がこの組織のトップに君臨できない。奴を育成し、あの女を亡き者にする。そのステージも脚本も既にこちらで用意してある。今から楽しみで仕方がない。ふふ、フハハハハッ!」
いけ好かない、と言う感じで、網(もう)羅(ら)聖(せい)の秩序を再確認した秘書の男の言葉に、何の心配もなく、心の底から悪党全開と言う感じで笑う銅羅。
果たして、理亜たちは、この悪党たちと関わらず、生涯を終えられるのか?
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