
第二十三章 思わぬ展開 九話
コンコン
また理亜たちの控室のドアをノックする音が聞こえてくる。
「今度は誰だ?」
豪真は再び懐からモデルガンを取り出し、慎重に開けようとする。
「なあ監督。ここまで来て監督の命を狙うような奴はいないと思うぜ?」
どことなく呆れ顔でそう言う奏根。
「万が一の事もある。私程、蓋世に優れた唯一無二の存在は、どこに居ても無防備にしてはいけない」
豪真は真面目な表情でそう言い、再びドアに目を向けると、理亜が「後ろに気を付けな」とトーンを低くしながら言うと、豪真の背中を強く突く。
「痛っ!」
豪真は驚愕し、思わず理亜に目を向ける。
「お前、刺客だったのか?」
目を大きく開きながら恐々と口にする豪真に対し「馬鹿な事言ってないで早く応対してあげなよ」と呆れながらそう口にする智古。
豪真は嫌な汗をかきながら一度深く深呼吸すると、再びドアに手を当て、ゆっくりと開く。
「誰だ⁉」
「うわっ!」
豪真は相変わらず警戒心剝き出しで、銃口を訪問客に向けると、その訪問客はドキッとして狼狽する。
「――ん? お前は」
「ど、どうも」
その訪問者を見て、豪真は少し驚く。
その訪問者とは、佐久弥だった。
佐久弥は体が震えていた。
それは、豪真の対応だけでなく、先程、殺害現場に居合わせた影響でもある。
よく佐久弥を見てみると、ジャージのあちこちに血が付いていた。
豪真はそれを見て、何か流血でも起きた一大事に居合わせたのでは? と憶測する。
「てめえ! 何しに来やがった!」
ドアを大きく開けた瞬間、奏根が佐久弥を見て、頭にきたかのように激怒する。
「……分かってます……私が貴方たちにした仕打ちを考えれば、その怒りはごもっともです……」
佐久弥は声を震わせながら涙目で丁寧に喋り出す。
豪真は何かあった事も含め、佐久弥の態度に不信感を持ちながらも、モデルガンを懐にしまう。
「何があった?」
豪真は色々な異変に気付き、佐久弥に直に確かめようとする。
「……いえ! 何もなかったです!」
豪真の問いかけに、何か恐怖的な物でも鮮明に過ったかのように、ビクンと身体をはねのけさせ、今以上に狼狽えだす佐久弥。
奏根も佐久弥をよく観察してみると、何か遭った事を想像する。
すると、奏根はそれ以上、言葉が出てこず、ただ佐久弥を睨みつける事ぐらいしか出来なかった。
理亜たちは、佐久弥の挙動に何か遭った事を同じく感じ取ると、何も言えなかった。
「本当に申し訳ありません! この罪は、必ず償います! 人間として自分自身を見つめ直し、精進していく事を貴方たちに誓います!」
そこで、その場の空気に耐え切れなくなった佐久弥は、その場で土下座をし、語気にありったけの謝罪の気持ちを乗せる。
その言動に、面を食らう理亜たち。
言えない何かがあり、それがきっかけで佐久弥は謝罪をしている、と想像してしまう理亜たち。
だからこそ、背筋に悪寒が走る、
何か、得体のしれない恐怖が、クリーチャープレイバスケットボールにはある、と。


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