
第二十四章 何時しかの約束 三話
「おーい! 文音―!」
すると、少しして、砂川高校のバスケ部メンバーたちが、文音に気付き、近付いてくる。
「ヤッホー。皆」
「おう。探したぜ……ん? てあれ? ――理亜か⁉」
文音が景気よく答えると、フレンドリーに文音に話しかけたかと思えば、その女子は、すぐ隣にいる理亜に対し、眉間に皺を寄せながら顔を近づけると、一変して驚愕する。
「……ねえ。私、今変装してるんだよ。何でこれで私って気付くの?」
理亜は納得がいかない様な様子で、そう言うと、女子部員は「だって、このご時世に、そんな昭和時代の変装する変人何て、理亜ぐらいだろ」と遠慮なく淡々と言い出すと「ムキ―!」とヒステリック見たいな起こり方をする理亜だった。
「アハハハハッ! 理亜ちゃんらしいよね」
思わず吹いてしまう文音に釣られるかの様に、哄笑する女子部員たち。
「まったく、先生の前で堂々と学校サボるなんて何考えてるのかしら、この子は~」
「うげえー! ごめんなさい!」
すると、いつの間にか理亜の背後を取っていた、顧問の女子教員、埼玉京子と言う人物が、理亜の首目掛け、腕でホールドすると、たまらず声を上げる理亜。
その先生は、スレンダーな体形に、形の整った顔立ち。
まだ二十代後半と言った所。
「それに理亜。変装するなら、今時ならもっと、メイクと髪に力入れないとだめだぞ」
「そうね、まあ、変人=理亜、てのが、私たち人間界の常識みたいなものかしらね」
「ちよっと! 私だって、女の子だよ! それに先生のその言い方!」
「「アハハハハッ!」」
女子部員の指摘後、京子はあっけらかんと言った態度で堂々と口にすると、理亜は唾でも飛ばすんじゃ、ないかってくらいツッコむ。
そして、周囲は暖かい空気の中、大声で文音たちは哄笑する。
「ねえ、せっかくだし、理亜ちゃん入れてバスケしない?」
「いいねえそれ。ここには丁度、リングもあるし。やろうか」
文音の提案に、女子部員たちは賛同し、すぐ近くにあるリングに目を向ける。
「え! いいの⁉ 私、一応、退部届出したのに?」
理亜は一驚する。
「ああ。これの事か?」
すると、京子が理亜の背後で、いつしか理亜が書いた、退部届を見せつける様に、懐から取り出す。
「うん。それそれ。て、何で先生が今、持ってるの?」
「う~ん。それはだな~」
納得がいかない面持ちで理亜が京子にそう聞くと、京子は、ニンマリとしたねちっこい笑みで、何故か、退部届の紙の上部分を両手でつまみ出す。
それを、全員が訝しい目で注視していた。
すると。
びりりりー。
「「――あっ!」」
なんと、京子は何の躊躇もなく、理亜が提出した退部届の紙を、上から下に向け、破りだした。
理亜たちは、それを見て驚く。
「いやあ~、お前が高校にいる間、お前の目の前で破り捨てる事が出来ないかって、常日頃、悶々としてたが、これでスッキリしたな」
「何で破くの⁉」
頻尿でも終えたかのようにスッキリした面持ちの京子に、慌てだすように問い詰める理亜。
「あのなあ、理亜。お前が辞める理由は分かってたし、今、義足が付いても、私たちの元に戻らない理由も調べは付いてる」
「え! ま、まさか⁉」
うんざりする様な口ぶりの京子のまさかの言葉に、かつてないほどのインパクトで驚愕する理亜。
「……理亜……お前……」
京子が神妙な面持ちで、理亜の顔面に向け、顔を、ズズズズ、と近づけていくと、理亜は額から汗を流し、固唾を飲み込む。


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