
第二十五章 つかの間のキャンプ 五話
「そうだ理亜さん」
「ん? 何々?」
加奈が紙に書く手を止め、理亜を呼ぶと、理亜は高貴と一緒に見ていたテレビから離れる。
「ちょっとモデルを頼んでいいですか?」
「えー。また? 私の裸婦で同人誌書いてるんだよね?」
「そうですが。何か?」
「うわーーー!」
理亜の問いに、当たり前ですが、見たいなノリで答える加奈に対し、理亜は両手で後頭部を掲げる様にして、思わず嘆き叫ぶ。
理亜からしてみたら、一般人が同人誌デビューするのは流石に堪えるらしい。
「そんなことより、ちょっと、胸を両手で装って、色っぽく持ち上げてくれませんか?」
「嘘でしょ! 前は自然体みたいな感じで書いてたのに、更にハードル上がるの⁉」
「それが何か?」
加奈は何の遠慮もなく、ハッキリと要望するが、理亜は驚愕し、嫌な顔、全開で聞き返すと、加奈は無表情で頷く。
ガックシと、肩を落とし、理亜は俯く。
「……ねえ、加奈ちゃん。もう少しハードル下げてくれないかな? 出来れば、少し色っぽいポーズを取るとか」
「駄目です。やはり同人誌は、ある程度、過激でないと、読者受けが悪いんです」
「うへーー!」
人差し指を軽く突きながら、もぞもぞとした態度で頼む理亜に対し、加奈は、キッパリと拒否する。
その反応に、溜まらず、理亜は辟易とした面持ちで、絶叫する。
「うるせえ女だな。良いだろそれくらい。お前の胸だけが、男には必要なんだよ。胸だけな」
胸をやたら強調しながら、嫌味を言う奏根。
「もうー! 奏根ちゃんたら! 僻みなら自分を生んだ親だけにしてよ。自分にない物を、他人に求めるのは勝手だけど、それを梅毒みたいに私の性活に入り込むみたいな事しないで!」
「んだとコラ‼」
理亜がギャンギャン喚き散らすみたいな子供みたいなノリで、奏根にそう言うと、奏根は、怒り心頭みたいなキレたオカン見たいな感じで、理亜の首に両手を回し、スリーパーホールドを決め、理亜は顔を青ざめさせながら、たまらず「うげえうぇーー!」と泣き叫ぶ。
「やれやれ」
豪真は、医学書を小声で朗読しながら、隣でわめいていた理亜たちに呆れる。
少しして、落ち着いた奏根が、両腕から離すと、虫の息、見たいな反応で、フローリングの上でピクピクと、身体を痙攣させる理亜だった。
「それにしても加奈さん。私から言うのは少しおこがましい気がしますが、流石に殿方の前で、セクシーなポーズを取るには、抵抗があるのでは?」
「――! そうだよ! ここには豪真さんだっているし!」
見るのにひと段落した高貴が、丁寧にそう言うと、理亜は、急に意識を取り戻し、身体をピクンと跳ねらせ、希望でも見出したかの様な、大仰な立ち振る舞いで、加奈に意見する。
「……ん~、言われてみればそうですね」
そこで、加奈が、まるで頑固親父が、初めて論破でもされているかの様な、渋い面持ちで、深々と沈思黙考する。


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