
第二十六章 闇の究明に向け 三話
まるで、ドラムロールでもなるようなシチュエーション。
しかし、輝美はその先を言う気は無かった。
そもそも、輝美や善悟は、特定の人物や組織の名など分かるはずもなかった。
輝美が起こしたかったのは、悲劇でも喜劇でもない。
渋る様に言葉を貯めようと演技する輝美の横で、なんと、一人の人相の悪い黒服の男が、輝美の背後を取ろうとして来た。
善悟は、区役所の人間たちを止めるのに必死で、手に負えなかった。
「輝美! 後ろ!」
声だけで必死な面持ちで伝える善悟。
「分かってるよ。けど、ありがとな」
演説に力説していたかと思いきや、輝美は、周囲を警戒していた。
背後にいた人相の悪い男は、鋭利なナイフを取り出して、輝美を背後から襲おうとした。
輝美は、手にしていた拡声器を、その人相の悪い男の額に向け強く投げつけると、人相の悪い男は、痛みで、その場で膝を地面につき、ナイフを落とし、藻掻き苦しむ。
「今だ善悟! そいつを取り押さえるぞ!」
「えっ⁉ お、おう!」
けたたましい声音でそう言うと、輝美は、ジャンプして、人相の悪い男に飛び掛かると、善悟は困惑しながらも、指示に従う。
輝美が蹲ってる人相の悪い男の背後を取り、両手を背中に回し、善悟が、その手首に手錠をかける。
そして、市民たちや役所の人間たちが動揺する中、輝美と善悟は、人相の悪い男を車の後部座席に突っ込み入れると、急いで輝美たちは車に乗り込み、車を走らせる。
「どういう事だよ⁉」
現状が未だ理解できない助手席に乗っている善悟は、困惑している人相の悪い男に目を向けながら、当然の質問をする。
「簡単な話だ。あそこで俺の言葉が目障りだと思うのは、十中八九、クリプバに関わる闇の世界の住人だ。これまでの連続殺人や、強姦まがいの犯行は、政府関係者の人間が隠蔽しているだろうしな。だから、防犯カメラを増やすだとか、捜査に人員を回さない。こんな絵図、子供でも分かる。だから文字通り、さっきの俺を口封じしてくる人間は、まず間違いなくあの事件に関与している人間の可能性が濃厚だ」
猛スピードで車を飛ばしながら、輝美は落ち着いた物腰で喋る。
「だからよ、何でお前の話が耳障りだと思われるんだ? それにこいつみたいな人間が、愉快犯の可能性もゼロじゃないだろ? なあ?」
輝美の言葉の大筋を理解した善悟は、落ち着いた態度に戻った。
落ち着きすぎて、すぐ隣で、びくびく震えている、人相の悪い男に、素っ頓狂に声をかける始末。
「え! あ、ああ! お、俺はただの愉快犯だ!」
便乗するように、人相の悪い男は、おどおどしながら口にする。
「はあー。おい善悟。あまり捜査をかく乱するなよ。どっちにしても、尋問すればすぐに分かるさ。そう、すぐにな……」
呆れながら口にする輝美だが、最後には、声に冷気でも込める様に、重苦しく言うと、バックミラーに写っている人相の悪い男に目を向け、睨みつける。
人相の悪い男は、額から汗を流し、固唾を飲み込む。


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