
第三章 懐かしい感覚を置き去りにして 三話
「いいか理亜。君が言うプロの世界は言わば光の道だ。だが私がこれから提案する、闇の世界のバスケットボールを制すれば、莫大な金が手に入る」
「ねえ。闇のバスケットボールって響き、法律の抵触に反してる気がするんだけど?」
純粋な目で提案する豪真に対し、理亜は少し顔を引きつりながら言う。
「安心しろ。闇の世界のスポーツと言っても国家が公認しているスポーツだ。闇のバスケットボール、クリーチャープレイバスケットボール、通称クリプバ、その大会は十年に一度開かれる。大会に参加する二年間の期間だけ、プロやアマチュアの大会には参加できない」
豪真の説明に理亜は顔を顰める。
「へー。ちなみに賞金はいくらなの?」
「……なんと……」
「なんと……?」
まるで、ドラムロールでも鳴っているかのようにじらす豪真。
理亜は生唾をごくりと飲み込み、緊張した面持ちで窺う。
「……選手……一人につき……十万円だ」
期待と興奮でもしているかのように答える豪真の言葉で、その場でズッコケた理亜。
「やすっ! しかもそんな大げさな大会な割に」
「冗談だ。一人百億だ」
「だよねえ。一人百……百億⁉」
笑いながら冗談なのか本当なのか分からない様な、すっとぼけてそう言う豪真の言葉にアハハハ、と最初は笑っていた理亜は一驚する。
「どうだ。凄いだろ? で、出場するか?」
「うん。出る」
「だろ? そんな簡単に出る……出るだと⁉」
理亜が二つ返事で即答すると豪真が、当たり前だな、見たいな感じから、一驚する。
「だって百億だよ! 出るに決まってんじゃん! それに……」
「それに?」
今から楽しみで仕方がない感じのウキウキ気分の理亜。
豪真はお金以外に出場したい理亜の情念が気になる。
「未知の大会に出場する選手が、どんなに凄いプレイヤーなのか楽しみで仕方がないんだ!」
くうー、と今にでも感情が爆発しそうな気持の高ぶり。
理亜には邪気は感じられない程、その喜びは純粋な物だった。
「……そうか。なら話は決まりだ。早速取り掛かろう」
豪真は笑顔でそう言うと、理亜がワクワク気分で待ち焦がれている様子だった。
「頭の中でオータァナァマァス・トォン・サーキットと唱えてみろ」
「え? どうして?」
「いいから。ほら」
豪真の言葉に首を傾げる理亜。
それでも豪真は笑顔で促す。
物は試しと思い、脳裏で豪真の言う通り、唱えてみた理亜。
(オータァナァマァス・トォン・サーキット)
目を瞑りながらそう唱えた理亜の脳裏で「リョウカイ。ジリツカイロのセーフティーヲカイジョシマス」と女のロボ声が響くと、ハッ、と驚いた理亜の右足の義足から縦模様の黒い線が浮かび上がると、瞬く間にその縦線が理亜の全身の体を侵食でもするかの様に刻まれる。
そして、その縦模様は徐々に薄くなり消えていった。
「えっ! えっ⁉ 何これ⁉」
狼狽する理亜に豪真は何かを成功したかの様に安堵した表情だった。
「君が付けている義足には、ナノマシンとICチップが組み込まれている。その義足から人間の体内の全細胞に筋力増加や五感を飛躍的に高める強化剤。全人類の医師のテクノロジーの集合体がそれだ」
豪真は慣れた口調で説明する。
「言っている意味は良く分からないけど、でもこれだけは分かる。この状態でバスケをしたらとんでもない事になるって事は」
理亜は自分の右手を見て、自身に力が漲(みなぎ)っている事に気付くと、豪真が理亜にボールをパスする。
そのまま高まる鼓動を抑えれないまま、ボールを弾ませる理亜。
すると、超高速でボールが弾み、目で追いつけない程だった。
理亜は驚きを隠しきれない様子で弾ませているボールを見る。
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