
第二十七章 第二回戦、開始 七話
静香はスリーポイントシュートを、フックシュートで打つ気だった。
完全に、奏根は静香の右片手で、伸ばす手を遮られてしまい、ブロックはまず不可能になってしまう。
フックシュートを打った静香のボールは、このままいけば確実に加奈がブロックできると言うシチュエーションだった。
誰もが、加奈がブロックするかと思いきや、加奈と静香の間に割って入り込んだのは、なんと、サイドラインにまで走っていたはずのエノアだった。
エノアは静香と加奈の間で跳躍し、シュートしたはずの味方のボールを奪い、時間差をかけて、加奈がコートに足を着く頃合いを見計らい、最高到達点でもないのにもかかわらず、フリースローシュートを打つ。
そのボールをジャンプしてブロックする事を考えていた、理亜、智古、高貴は敵のスクリーンにより妨害されてしまい、ジャンプする事は出来なかった。
そして、エノアが打ったシュートは決まり、先制点はダイオンジチームとなる。
観客たちは熱狂する。
「ありゃペナルトギアならではの戦術だね」
由紀子が笑みを浮かべながら口にする。
「あちゃー」
理亜はまずい物でも見たかのような反応をしていた。
「どんまい! どんまい! 切り替えてこ!」
「「おう!」」
智古がチームを鼓舞し、理亜たちは気合十分と言った感じで答える。
「シズちゃんが前半から飛ばすなんて珍しいね。いつもだったら、パス貰ったり、ボールを手にしたらすぐ私たちにパス出すのに」
聖加がキョトンとした面持ちで静香にそう聞く。
「まあねえ。何かあのチームと、真っ向からやりたくなって」
少し照れながら口にする静香。
「もう、シズちゃんたら照れちゃってー。さっきの八番の人が言ってた事に、感化されたんじゃないの~」
少し、小悪魔的な笑みで、エノアが静香の頬を軽く突く。
「そ、そんなんじゃないじゃん! それより、次ディフェンスだよ! 百億てに入れて、私に楽させるじゃん!」
躍起になるかの様に照れ隠しする静香。
それを見ていたダイオンジチームは順子の様に哄笑したり、エノアの様にクスクス笑う。
しかし、芙美だけが「お前さんは変わらんのう。そんな継ぎ接ぎだらけの思考では、あの八番はおろか、四番の貧乳女の言葉が言霊として、おぬしの心を排斥するやのかもしれんのに」
少し、呆れながら口にする芙美に、「だ、だいじょうぶじゃん!」と自分自身を言い聞かす様に、子供が慌てる様な素振りをする静香だった。
静香は、自分自身、ゆとりと信念を誰よりも持っているかの様に見えて、実は揺らぎやすいと言う欠点があった。
その欠点があるからこそ、芙美は、ダイオンジチームの中で、誰よりも静香の事が気がかりでならなかった。
「よし、次は一本止めるぞ! 声出してこー!」
「「おう!」」
ダイオンジチームは気合たっぷりな様子。
智古が加奈にパスを出すと、加奈は敵チームのリングに向かいドリブルしていく。
そこに立ちはだかるのは、加奈と同じくポイントガードのエノア。
幼い容姿でありながら美人と言う、何とも言えない美貌だが、やはり、バスケになると打って変わって、選手その者の鋭い顔つき。


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