
第二十七章 第二回戦、開始 八話
エノアは加奈がフロントチェンジで左右に揺さぶりをかけるたびに、ハンズアップしながら左右に足を反復させる。
加奈はチェンジオブペースをしながら焦る気持ちを静めると、一気に加速して、右からエノアを抜きにかかる。
エノアは抜かれはしたが、すぐに加奈に追いつく。
加奈は追いついてくる事を計算に入れ、すぐに智古にパスを出す。
左サイドにいた智古はパスを受け取ると、すぐに聖加が智古の前に立ちはだかる。
両手を広く広げ、腰をしっかり落とし、抜かせまい、と言う意気込みがしっかりと智古には伝わっていた。
容易に抜けない事はすぐに察したが、ゴール下に居る高貴にボールを届けたい一心で、智古はレッグスルーで左から抜くと見せかける間、そこにチェンジオブペースを混ぜる。
少しスロー再生に見えた聖加は、そこで完全に目が留まってしまうと、智古は一気にスピードを上げ、バックチェンジで右に素早くボールを持ち替え右から抜いた。
だが、聖加は抜かれても、身軽とは言えない身体でありながら、ロールターンでもするかのように身体を左にクルリと回ると、僅か一歩分の歩幅だけで智古の前に出た。
完全に意表を突かれたかの様に、目をギョッとさせる智古。
聖加はその隙を見逃さず、智古のボールをカットし、転がっていったボールをすぐに片手で手にすると、理亜たちのリングに向かいドリブルして行く。
智古はボールをカットされた事に焦りながらも、急いで聖加の前に出ようとした。しかし、既に聖加はスリーポイントラインにまで迫っていた。
そこで、理亜がヘルプに回り、聖加の前に出ようとした時だった。
芙美が理亜にスクリーンをかけ、聖加の行く手を阻止させないようにする。
聖加はスリーポイントラインからジャンプした。
しかし、理亜は、先程の聖加と同じく、クルリと芙美の周りを回転するように左側に回ると、すぐに跳躍する。
完全にブロックする体制だったが、聖加は冷静だった。
聖加はすぐ左下に居る芙美にパスをする。
パスを受け取った芙美は、そのままゴール下に行き、レイアップシュートでゴールを決める。
「うあー、やっぱそう来るよねー」
理亜は悔しそうに口にする。
「まずは一本決めましょー!」
「「おう!」」
加奈がパスを受け取ると、気合を入れて語気を強めると、理亜たちも覇気のある声を口にする。
加奈がエノアを抜こうと右から切り込むと、エノアは俊敏な動きで加奈の前に立ちふさがる。
すると、加奈は、素早くフロントチェンジで左手にボールを持ち替えると、インサイドアウトで、左の外側に切り返した。
そのまま加奈は左手で左サイドにいる理亜にパスを出す。
しかし、そのパスはギュルルと音を立てて、左から右に曲がった。
曲がった先に居たのは、ゴール下に居る、高貴にだった。
「中央に居ない場所に、柔軟な針を通すようなパスだね」
由紀子はニンマリしながら口にする。
ダイオンジチームは全員、驚いた表情をしていたが、すぐに気持ちを切り替える。
パスを受け取った高貴。
「さっきのリベンジマッチてやつか? いいねえ。来い!」
順子は威風堂々とした面持ちでハンズアップして高貴と真っ向から勝負する。


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