
第二十八章 激突、奏根と静香、互いに譲らぬ気持ち 一話
加奈は急激にスピードを速め、左からエノアを抜きにかかる。
それに対応するエノアに対し、加奈はフロントチェンジで右に持ち替えると、右手に手にしたまま、左にボールを移動させ、エノアの目を引き付けてから、右側にボールを素早く移動させ右から抜いた。
そこからスリーポイントまでドリブルして行くと、ヘルプで静香がディフェンスに入ってきた。
加奈はロールターンで左から抜くかと思いきや、クルリと回る瞬間に、奏根に向かいワンハンドパスをする。
最大まで静香と。後を追ってきたエノアを近づけさせる事に成功した加奈のドリブルとパスに、達樹から感嘆の声が漏れる。
「あの選手、ポイントガードとしての役割をきっちりとこなしていますね」
奏根はパスを受け取ると、片手でボールを自分の顔よりやや高めに投げる。
何をするのか分からなかったダイオンジチーム。
しかし、シュートかパスのどちらかだろう、と踏んだ静香と順子。
順子はいつでもジャンプできるように、高貴より、優位なポジションを確保する。
「言っとくが、こいつはそっとやちょっとじゃブロックできねえぜ」
ボールが最高到達点の位置にまで上がると、鋭い目になりながら、きざっぽく口にする奏根。
静香は奏根の前に立つまで、あと一歩と言う所だった。
奏根は両手を腰にまで回し身体を極限にまで捻ると、まるで竜巻でも引き起こすんじゃないかと言えるほど、グルリと回る。
すると、本当に竜巻が発生し、ボールを包み込むようでありながらも、外側は、まさにサイクロンでも発生してるんじゃまいか、と思わせるほど、渦を巻いていた。
「なっ!」
近くまで迫っていた静香は、驚愕しながら、その渦に弾かれてしまい、尻餅をつく。
順子は咄嗟にジャンプする。
片腕でブロックしようと、奏根のサイクロンシュートと激突し、熱い火花を巻き起こす。
バチバチチチ!
順子は険しい表情で、竜巻を御そうとするが、あえなく弾かれコートの下に尻餅を付けてしまう。
そのまま功を描くアーチで、奏根のサイクロンシュ―トはリングの中に入った。
これで点数は四対七。
「よし!」
豪真はガッツポーズする。
「おい、そんなに楽したいならバスケなんてやらない方が良いぜ。なんせスポーツは汗かいてなんぼのもんだ。その刺激は楽じゃ変えない代物だからな」
「えっ」
まるで捨て台詞の様に、尻餅をついて、へ垂れ込んでいる静香に対し、冷たく言う奏根。
静香は口を半開きにして切ない瞳で奏根を見上げる。
そのまま去っていく奏根に、儚げな瞳を向けていた静香は、下を見ながら泣きそうな表情になってしまう。
「「静香ちゃん!」」
そこへ、エノアと聖加が心配した面持ちで駆けつけて来る最中。
芙美が間に入り、片腕を伸ばし、エノアと聖加を静香に近付けさせなかった。


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