
第二十八章 激突、奏根と静香、互いに譲らぬ気持ち 二話
芙美は、エノアたちに振り向くと首を横に振るう。
そこでエノアと聖加は、芙美が静香に自分で立ち直させるべき、と判断した事が伺える。
順子もゆっくりとエノアたちに近付き肩に手を添え、振り向いてきたエノアと聖加に暖かい笑みを向ける。
仲間を信じろ。
順子の目は、そう呟いてるように見えたエノアと聖加。
エノアと聖加は、互いに儚げな瞳を向け合うと、軽く頷く。
「よし、皆、一本決めて景気よく第二クウォーターを迎えようぜ!」
「「おう!」」
順子の力強い言葉に、呼応する様に答える芙美たち。
静香はと言うと、ただ座っているだけではいけない、と判断し、断腸の思いで奮起する。
両手で涙を拭い、頬を力んで再びポジションに着く。
しかし、静香のミスが連発してしまい、二十三対十五で、順子たちは負てしまい、第一クウォーターは終了する。
「よし、上出来だ」
「ふうー。何とは点差を放せたな」
豪真が拍手しながら理亜たちを迎え入れると、奏根が汗を流しながらしんどい溜息を吐いていた。
「ねえ、豪真さん。私が相手チームの監督なら、七番の人がミスを二、三回した時点で、タイムアウト取ってたけど、向こうの監督さんは取らなかったよね。何でだろ?」
素朴な疑問として、理亜が、スポーツドリンクをがぶ飲みすると、そう口にする。
「さあな。だが案外、あの監督はバスケではなく、人としてあそこに立っているのかもな」
「「え?」」
豪真の意味深な言葉に、理亜たちは訝しい目を豪真に向け、首を傾げる。
一方、ダイオンジチームはと言うと……。
「皆さん、お疲れ様です」
「いやー。あのチーム強いな」
「ラフプレーの中、勝っただけはあるよね」
達樹が仏の様な穏やかな声音で、順子たちを迎え入れると、メンゴメンゴ、見たいな軽いノリで戻ってきた順子たち。
順子はベンチに座ると、豪快な笑みで理亜たちを称賛すると、エノアも理亜たちのプレーを一通り観察して感嘆の声を口にする。
そこで、芙美が静香を横目で憂鬱な瞳でじっと見る。
静香はと言うと、タオルを頭にかぶりながら、俯いたままだった。
「ねえ、皆、これ食べて、元気だそ♪」
そこで、聖加が栄養補給として、蜂蜜と砂糖をたっぷり練り込ませたレモンの薄切りを持ってきた。
「おう、サンキュー♪」
順子たちは、タッパに入っている糖分、酸味たっぷりのレモンの薄切りを口の中にポイポイ入れていく。
「かあーー! うんめえーーー!」
語彙力が崩壊するほど、順子はあまりもの美味さに、カンカンに冷え切ったビールを飲むОLのような喜びを表現していた。
芙美やエノアも笑みを浮かべながら食べていく。
「ほら、静香ちゃんも♪」
聖加は母性的な笑みで、静香にタッパを差し出す。
しかし、静香は、俯いたまま無言だった。
「やれやれ、重症だな」
順子が後頭部をポリポリかきながら呟く。
「静香さん、少しいいですか?」
「……えっ?」
達樹が微笑みながら、片膝をコートに付き、静香と同じ目線になる。


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