
第二十八章 激突、奏根と静香、互いに譲らぬ気持ち 三話
「先程の試合、四番の選手に何を言われたかは、察しがついています。落着なのは、誰しもが望み、また、困難を避けるのは、普通の事です」
優しく微笑みかけながら淀みなく喋る達樹の言葉をウルウルした目で見続け聞く、静香。
「ですが、スポーツなどの種目競技では、争い、競い、必ず困難に直面します。なので静香さんは、今のまま、困難に立ち向かってください。そう、貴女の言う楽と言う道程が、必然的に、強固の壁を瓦解してくれるはずです。私は、そう信じてます」
穏やかな声音で続けて喋る達樹の言葉は、心に染みわたる様な気持ちで聞く静香。
そこから、静香の表情が、少し緩み始めた。
すると、達樹が、順子たちに身体を向ける。
「はっはっはっ。先程の第一クウォーターでタイムアウトを取らず、この試合が負けてしまえば、私の責任ですね」
どこか惜しむ様に言いながら笑う達樹。
その言葉に、順子たちは首を横に振るう。
「そんな事ないですよ。監督の采配があったからこそ、僕たちはここまでこれたんです」
「そうですよ。私たちが責任もって、勝ってくるんで。監督さんは大船に乗ったつもりで見ていて下さい」
「なんだそりゃ。でもまあ、やるっきゃないよな」
「フフッ」
エノアが笑みを浮かべながら否定すると、聖加が胸を弾ませながら、元気いっぱいで答える。
それを順子が、笑いながら、何だかんだ言って賛同すると、芙美も思わず微笑む。
「……」
その様子を、落ち着いて見る事が出来た静香は「聖加ちゃん。私にもレモンの蜂蜜砂糖漬け頂戴」と気持ちを引き締めそう言うと、聖加は満面の笑みで「うん♪」と言い、タッパ事、差し出した。
理亜たちはと言うと、豪真が、理亜たちに作戦を伝えていた。
「第二クウォーターからは、奏根のサイクロンシュートを主体としたオフェンスだ。 スクリーンやディフェンスが勝負の決め手だ。それから向こうのチームの四番の瞬発力が尋常ではない。油断するなよ」
豪真が熱弁でもするかの様な、熱い意気込みで語り終える。
「だね。あの四番だけでなく、全体的にオフェンスやディフェンスが並じゃないもん。この前、アンテロープスの選手の人たちと、対戦した時と同じ感じがしたくらいだし」
智古が、順子たちをじっと見て、警戒しながら喋る。
「確かに、あの時と似た脅威を、肌を通して犇々と感じます」
高貴も同じ思いだと言う事を、思わず口にする。
「でも、七番の人が突然、プレーに支障が出たみたいになってから、点は取りやすくなったよね?」
理亜がキョトンとした面持ちでそう言うと、奏根が、理亜のおでこにデコピンを入れる。
「何ぬるい事いってんだ。少しの油断が、勝敗を左右するんだぞ。スポーツはその末端とは程遠い。だから気を抜くな」
「ふえーい」
(イラ)
キャプテンらしく、理亜の身をシャキッとさせようとした奏根だが、理亜はふざけた顔で剽軽な声音で返事をすると、奏根はブチギレそうになるのを堪えた。
そして、奏根は、何故か、静香を憂慮する思いで、見つめると、加奈が「どうしたんですか?」と素朴な疑問を聞いてくると、奏根は「いや、何でもない」と淡々と口にする。


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