
第二十八章 激突、奏根と静香、互いに譲らぬ気持ち 四話
すると、第二クウォーター開始前のブザーが鳴る。
「では皆さん。先程お伝えしたように、第二クウォーターからは静香さん主体で点を取りに行きます。皆さんはそのフォローを」
「「はい!」」
暖かく送り出すような声音で順子たちに指示を出す達樹に、順子たちは覇気のある声で答える。
そして、選手一同は、センターサークル付近に集まる。
「ジャンパー。前へ」
審判のお兄さんが真剣な面持ちでそう言うと、黙っていながら険しい表情で、高貴と順子が前に出る。
他の面々もポジションに着いていく。
「よう。少しは目が覚めたか?」
奏根が、まるで友人に気安く話を振るかの様に、静香に声をかける。
「ふん。変わるわけないじゃん」
「お前、まだ言ってんのか?」
その問いに、静香は小生意気な感じで答えると、奏根は呆れて口にする。
そして、ブザーが鳴り、ボールが宙に舞う。
「ぺちゃぱい女に一つレクチャーしてあげるじゃん。何事に置いても、才能と種目、そこに賞金までかかってれば、やる事は一つじゃん、て事を」
「喧嘩売っとんのか⁉」
静香が小生意気にそう言うと、ブチギレる奏根。
そこで、順子がボールを最初に弾く。
その先に居たのは、エノアだった。
エノアがパスを受け取るまでの間に、静香が「人生、笑っていてこそ生きた実感があるじゃん。楽な人生こそ、人間のあるべき姿じゃん」とニンマリ笑いながら、エノアに向かいダッシュすると、奏根も後を追う。
エノアがパスを受け取った途端、すぐに後ろも見ずに背後に迫っていた静香にパスを出す。
早々とパスを出すものだから、加奈は判断が鈍る。
すると、奏根が静香をディフェンスしようとしたが、順子がすぐに、奏根に対し、スクリーンをかける。
丁度、静香たちはハーフラインに居た。
そこで、豪真は、早々と静香を守るディフェンスを取っていたことに対し、あそこからシュートを打つ気なのか? と、脳裏を過る。
その考えが的を着いたかの様に、静香は片手をボールを持った状態で掲げ、三百六十度、グルグルと回し始めた。
一体、何をする気なのか想像できない理亜たち。
そこで、加奈と高貴が、静香を止めようと、静香の前に走り出すが、順子が静香に近づけさせないスクリーンを取り続ける。
智古も介入しようと思ったが、聖加も順子に加わり、ダブルスクリーンを展開していた。
「クソっ!」
静香に近付けない奏根は苛立つ。
芙美は、理亜たちのコートのスリーポイント付近からフリースローサークルまで、行ったり来たりしていて、その後を理亜が追う。
芙美を、フリーにするのは何かまずい気がした理亜は、奏根たちに加勢できなかった。
「そろそろ行くじゃん!」
「な、なんだ。何をする気だ」
静香が気合の入った面持ちで勝負を決めにいくセリフを口にすると、豪真は動揺していた。
そして、三百六十度、ボールを手にしたまま、片手をブンブン振り回しながら、突如、天井斜め前に目掛け、力強く投擲する静香。
その常軌を逸した投げ方に驚愕する理亜たち。
静香が投げたボールは、まるで、蛇の様な乱れ方のアーチ。
そのボールは見た事も無い縦横無尽な動きで、徐々に理亜たちのリングに近付く。
「まさか! シュートか!」
その、哲学者ですら読めない、軌道のボールに、ただただ、驚く事しか出来ない豪真。
そこで、理亜は、意を決して、リングの手前でジャンプした。
理亜は、一か八か、読めない軌道を描くボールをブロックしようとし、大振りでボールを叩こうとしたが、ボールは、理亜の手を掠める事も無く、まるで、生きた蛇が敵を避けようとした様な動きで躱し、常識破りなゴールを見せた。
まさかのシュートに、口をあんぐり開けさせる、奏根たち。
「しゃーっ! やったじゃん!」
静香は思わずガッツポーズを取る。


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