
第二十九章 輪の力 一話
「あそこのチームは本当に仲睦まじいですね♪ 思わず輪に入りたくなってしまいます―♪」
「こら聖加よ。そう言う団欒の輪に入るのは勝負の後にせい。今はこの危機を打開する監督の指示に着目するのだ」
「はーい♪」
芙美が落ち着いた声音で聖加を静止させると、聖加は満面の笑みで答え、監督に身体を向ける。
「ハッハッハッ。では芙美さんの意気込みに尻込みする様な指示は出せませんね」
笑い飛ばすような爽やかな相好でそう言うと、達樹は指示を出していく。
「……うん。確かに、今の僕たちが、あのぺちゃ、あ、いや、コホン。あの四番の選手のシュートをブロックするにはそれしかないですね」
エノアが少し気恥ずかし差を感じさせながらも、咳払いし気持ちを引き締め直すと、淡々という。
それにしても、奏根は、とことん、胸の事を弄られるらしい、と、ここで、作者は気付いたのだった。
話は進み、達樹が指示を終えると、ブザーが鳴り、メンバーたちはコートに集まる。
そして、ホイッスルが鳴ると同時に、理亜が智古にパスを出す。
聖加がディフェンスをしてくるが、智古はレッグスルーから右手にボールを持ち替えると、奏根が、ここぞとばかりに、スリーポイントラインのサイドラインにまで走っていく。
その後を必死に追う静香。
すると、ピタッと止まった奏根に対し、キレのあるパスを出す智古。
急に止まった物だから、静香は体制が崩れてしまった。
「貰った!」
奏根は届いたボールに対し、そのまま触れず、身体と両腕をくるっと捻り、竜巻でも起こすかの様な、大胆な動きで三百六十度近く、両腕と身体を回す。
そして、奏根の前にあったボールは、渦の中に閉じ込められ、とぐろを巻くようなアーチを描き、順子たちのリングに向かって行く。
「――ッ!」
静香は急いで手をボールに向け伸ばすが届かず、悔しそうに見る事ぐらいしか出来なかった。
そのまま、また決まるのでは? と、観客たちは誰しもがそう思っている時だった。
竜巻に閉じ込められたボールが徐々にリングの中に落ちると言う所で、なんと、順子と聖加がジャンプして、両手を重ね合わせ、奏根のサイクロンシュートに挑もうとしていた。
それを、ギョッとした目で凝視する奏根。
「「くううぅくう!」」
順子と聖加は、奥歯を噛みしめながら、とてつもない圧迫感に立ち向かう。
そして、バチバチとした火花でも走っているかの様に争う中、遂に、その時が来た。
「「うわあああー!」」
順子と聖加は結束し、力を合わせた結果、バコンン! と言った、トラック同士の激突音でも出すかの様な、轟音が鳴ると、竜巻が弾け飛び、同時に、ボールは明後日の方角に飛んで行ってしまい、観客席にまで飛んで行った。
それを、驚いて見ていた奏根。


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