
第二十九章 輪の力 三話
少し、後ずさる様に足を一歩引く順子たち。
「よし、このままバイオレーションまで、時間を稼ぐぜ」
自分たちのコートで呼吸を整えながら、奏根がそう口にすると、その先に居る順子は笑みを浮かばせた。
「聖加!」
「うん!」
何かを思案していたかと思った矢先、順子が聖加を呼びかけると、エノアが「はい、キャプテン」と笑顔で順子にパスを出す。
すると、順子と聖加は、竜巻が発生しているセンターラインに向け走り出す。
「なに!」
その行動に、豪真は一驚する。
順子と聖加は、竜巻に弾かれそうになりながらも、歯を食いしばり、意地でも、理亜たちのコートに走り出そうとしていた。
それを、見た奏根が「今のうちにディフェンス体制に入っとけ!」と理亜たちに指示を出す。
まさかのまさかだった。
なんと、順子と聖加は竜巻の中に入ると、片腕をブンと振り、竜巻をかき消した。
すると、順子は一気にトップスピードで、理亜たちのリング目掛け、ドリブルしてきた。
驚く暇もなかった理亜たちは、すぐに順子と聖加にダブルディフェンスで着く。
「悪いけど、取らせてもらうぜ」
ニヤリとした笑みで、順子がドリブルしながらそう言うと、スリーポイントラインから、ディフェンスに着いた、理亜と奏根。
順子はレッグスルーで左から抜きに来る。
その動きに呼応するかの様に、理亜も両手を広げ動く。
すると、順子はすぐにレッグスルーで右手にボールを持ち替えると、なんと、理亜と奏根の間を、ボールを手にしたまま、側転で抜いてきた。
まさかの離れ業に、一驚する理亜と奏根。
順子はそのまま、高貴が居る、ノーチャージセミサークルに向かって行くかと思いきや、側転して足をコートに着けた途端、ワンステップでジャンプした。
予期せぬ跳躍に一驚しながらも、慌ててジャンプする高貴。
順子は、フックシュートの構えを取ると、シュートかと思いきや、フックパスで、左斜め前に、猛スピードでパスを出すと、聖加が空中で受け取り、そのままダンクで決める。
四十五対四十三
観客たちの熱量は上がり、絶叫の様な歓声が鳴り響く。
順子と聖加はハイタッチして戻っていく。
「ん~。なんかまずくない?」
理亜は仏頂面で、隣に居る奏根にそう聞くと、奏根は「ほんと、お前とチェンジさせたいくらいだわ」と呑気に口にする。
「ムキ――!」
理亜はプンプンした面持ちで激怒する。
「はっはっは。まだまだ元気が有り余っているようですね。……皆さん、どうか油断なさらぬよう」
コントの様なやり取りを見ていた達樹が穏やかな表情でそう言う。


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