
第三章 懐かしい感覚を置き去りにして 六話
いつの間にか豪真が二階の観客席に移動していた。
お互い、軽い準備体操をしてコートの中央に移る。
「では始める前にルール説明をします。基本は一般的なバスケットのルールと変わりませんが、ゴールテンディングとインターフェアはルールから除外します。また今回は千川理亜さんが単独なため、ジャンプボールは手で弾くのではなく、リバウンド形式で掴み取ってもらいます。それからハーフラインからでのシュートは五点になります。先に六点先取したチームの勝利となります」
審判の説明に納得がいったのかそうではないのか分からない複雑な表情になる理亜だったが、何とか飲み込んだ。
「吠え面かかしてやるぜ。ふしだらボディー女」
奏根が憎まれ口で叩いてくると理亜もキリっとした表情になる。
「残念無念代表見たいな体系の人にそれ言われても何も感じ無いもんねー
」
理亜はあっかんべーすると、奏根ゆでだこみたいな顔色で歯を強く嚙む。
「ほら奏根ちゃん。じゃれあうのはそこまでにして、サーキットかけるよ」
「「じゃれあってない!」」
理亜と奏根がハモッタかの様に声を揃えて怒号を上げると残りのメンバーの三人がクスクスと笑っていた。
「それでは試合を始めます」
審判の内田がホイッスルを口に加え、ボールを両手でしっかり握り、中央に立つ。
そして、奏根たちはオータァナァマァス・トォン・サーキットを心の中で呼びかけるように言うと、黒い縦線が、身体をむしばむ様に広がっていく。
その模様が徐々に薄れて消えていくと、高貴が前に出てきた。
「待て高貴。ジャンプボールは俺がやる」
「……分かりましたわ。お願いします」
奏根が片手で道をふさぐように高貴の前で広げ、高貴を止めると、高貴は少し驚くと凛々しい表所で奏根の指示に従う。
理亜の身長は百六十七センチ。奏根も同じだった。
ちなみに高貴の身長は百七十五センチ、女性にしては高めである。
審判がボールを上に放る構えを取ると、理亜と奏根が審判の間に立ち、お互い睨み合う。
緊迫する空気の中、頬を緩ます人物は一人も居なかった。
そして、審判がホイッスルを鳴らし、ボールが高く上がり、頂点に達する寸前に、理亜と奏根は跳躍した。
互いに険しい表情で飛ぶ中、ボールを手にしたのは理亜だった。
「ちっ!」
取れなかった事で苛立ち舌打ちをする奏根。
「加奈! 智古! ダブルチームだ!」
奏根の指示にすぐに従った加奈と智古は、理亜が着地したと同時にディヘフェンス移る。
理亜はボールを両手で握り、二人を抜こうとした。
そこで、奏根が理亜の背後に回り込んだ。
理亜の背後からボールを奪いにかかる奏根。
加奈と智古は両手を広げ、腰を低くし息の合った連携で理亜を抜かせなかった。
あと少しで奏根がボールを奪おうとしたその時、理亜は大胆にもダックインで加奈と智古の間を通った。
「なに!」
抜かれた事に驚いた奏根。
理亜はそのままドリブルで高貴が守っているゴールリングに突っ込む。
時速六十キロは出すスピードのドリブルだが、審判の内田にははっきりと視認していた。
「抜かせませんわ!」
高貴が理亜のスリーポイントシュートを警戒していたのか、ゴールリングの下からスリーポイントラインにまで迫る。
しかし、理亜はスリーポイントライン手前で、ボールを床に強く叩きつけた。
体育館場に大砲の音でも響いたかの様な叩き付け方。
そのボールは、楕円状の線を描くようにして、高貴の頭上を通り越す。
驚く高貴を置いてけぼりにでもするかのようにゴールリングまで突っ走る理亜。
「まさか! 一人アリウープ⁉」
智古が驚愕しながら理亜の後を追う。
他のメンバーも後を追うが間に合わず、理亜はリング上でボールを掴み取り、そのまま宙で、リングに叩きつけた。
「ほう。やるな」
それを目にした豪真は少し誇らしげに理亜を称賛する。
「くそ!」
「へへっへーん」
奏根が悔しそうにしてるとドヤ顔を奏根に向ける理亜。
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