
第二十九章 輪の力 七話
エノアは、手に届く寸前に、ボールを平手打ちした。
強く叩かれたそのボールは、ディフェンス体制に入る隙も無く、加奈はただボールを目で追う事しか出来なかった。
飛んでいった先は、聖加が居る、スローインライン。
智古も追いかけていたが、間に合わず、聖加にまでボールが届いてしまう。
てっきりキャッチするかと思った、智古だったが、それとは予想できない行動を起こす聖加。
聖加は、裏拳で向かってきたボールを殴り飛ばしたのだ。
それには智古も一驚する。
飛んで行った先は、理亜たちのコートのフリースローの位置のサイドライン。
エノアと聖加は、走りながら交互に、ボールを斜め前に弾き飛ばし合いながら、最後に、エノアがボールを斜め前上に弾き飛ばした。
すると、聖加が跳躍し、スローインラインのスリーポイントラインの上空でバレーのスパイクの構えを取る。
まさかの展開に、驚きを隠しきれない豪真。
智古も追いつこうとしたが、エノアと聖加のタスキを繋ぐような超高速パスに翻弄され、大分動きが遅れていた。
そして、聖加は強烈なスパイクをボールに叩きこむ。
叩かれたボールは、斜め上から下にかけて、リングの中にボールが入ってしまう。
バコン! と言うボールとリングのぶつかり合う音が、会場中に響き渡る。
「「うおおおおぉーー!」」
会場に居る観客たちは、我を忘れたかの様に熱狂する。
「やったね!」
「うん♪」
聖加が、満面の笑みでエノアに近付き、二人はハイタッチをする。
「あんなのあり⁉」
「ちくしょー」
理亜が脱帽でもするかの様に、肩を落とすと、奏根は悔しい気持ちを押し殺す様に呟く。
「ごめーん。まさかあんな戦術で来るとは思わなくってさ」
「及ばすながら右に同じです」
智古は、もうどうしようもない、見たいなノリで、案外ケロッとしていた。
同じく加奈も、仰々しい様に見えながら、どこか気が抜けているような様子。
何とも、表現しにくいリアクションになってしまうのも、無理はないのかもしれない。
これで点数は、四十五対四十六。
逆転されてしまっただけでなく、間違いなく、この第三クウォータ―のカギを握っているのはダイオンジチーム。


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