
第二十九章 輪の力 九話
逆転はしたが、一点差では誤差に近い状況。
それを誰よりも理解している、理亜たちは気が抜けない。
「やるな」
順子は落ち込んでいる様子など、微塵も感じさせず、すぐにオフェンスに切り替える。
そして、芙美がエノアにパスを出すと、すぐに聖加に高速パスを出す。
加奈はハーフコート付近で待っていたため、手が出せなかった。
聖加は、先程と同じように、裏拳でボールをサイドラインにまで殴り飛ばす。
すぐにエノアがリング付近にまで、ボールを叩きつける様なパスを出す。
まさに電光石火の技に、翻弄される加奈と智古。
しかし、高貴がゴール下からジャンプし、パスカットしようとした。
しかし、聖加はゴール下の右側にまで走り、ジャンプし、ボールをキャッチする。
スローインラインに居たはずの聖加が、一気に距離を詰めてきていたのだ。
アリウープかと思ったパスを受け取った聖加は、時間差をかけ、高貴が着地するタイミングを見計らい、シュートを打つ。
「させない!」
すると、智古が飛び出してくるかの様に、ゴール下からジャンプし、ブロックしようとした。
だが、そのボールを先にキャッチしたのは順子だった。
順子は空中でパスを受け取ると、フックシュートで決めた。
観客たちは「「うおおぉーー!」」と、大歓声を上げる。
舞台の上の液晶パネルが、四十七対四十八となる。
順子と聖加がハイタッチして、自分たちのコートに戻っていく。
「ピーー! タイムアウト! シャルトエキゾチック!」
審判のお兄さんが、そう声を上げると、理亜たちは肩から息をしながら豪真を見る。
選手たちは各々のベンチに行く。
第三クウォーターは、残り六分を切った。
「皆、辛いとこすまんな」
「いいよ。むしろ休憩が取れるし」
豪真が渋い表情でそう言うと、理亜は呼吸を整えながら答える。
スポーツドリンクをがぶ飲みしながら、豪真の指示を聞く理亜たち。
「あの五番と六番のサイドラインとスローインラインで叩き合うパスには、正直、驚かされたが、対策がないと言うわけでもない」
「と言うと?」
豪真が真剣な面持ちで説明しようとすると、智古が首を傾げる。
「いいか。どんなパスであろうとパスなんだ。必ず間と言う空間がある。さっきのお前たちはあのパスが、高速だったため、手の出しようがなかった。だからこそ、間を取れ。奏根がセンターラインでパスの中核を抑えつつ、サイドラインは後方、スローインラインは前方にサイクロンストップを使う」
「なるほどな。パスコースの中核を抑えつつ、両端にサイクロンストップを使い、パスの範囲を狭くさせ、パスをさせにくくさせるってわけだ」
「ああ」
豪真がマグネットの色付きの磁石で丁寧に説明すると、奏根は納得する。
理亜たちも「「おおー」」と、豪真の指示に感心でもするかの様だった。
「その代わり、スタミナを消費する。サイクロンストップやシュートだから致し方ないが、いけるか?」
豪真が少し不安になりながらそう聞いてくると、加奈は「はい。私たちなら問題ありません」「うん。そうだね」と明るく言うと、智古も笑みを浮かべながら答える。
一方、ダイオンジチームは。
「皆さん、あちらの七番のパスや、他の選手たちの柔軟なシュートに対応するには、オールコートで当たった方が一番、効果的です」
「確かに。少なくとも僕じゃ対応できる技術は限られてますから、オーソドックスなフォーメーションの方が理にかなってるね」
エノアが真剣な面持ちで頷くと、他の選手たちも頷く。
「私とエノアちゃんでオフェンスの突破口を開きつつ、ディフェンスではオールコートで相手の機能を絶たせようって事ですね」
「そうです。ですがそれだけで勝てるほど相手は甘くありません。なので第四クウォーターで、一気に勝負を決めます」
聖加がまとめて言うと、それに同意する達樹だったが、他の策を設けていた。
一体、その策とは……。


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