
第二十九章 輪の力 十話
そうこうしている内に、タイムアウト終了のブザーが鳴り、選手たちは再びポジションに着く。
理亜たちからのボールで、理亜が加奈にパスを出すと、達樹の指示通り、オールコートで当たってきた順子たち。
「まあ、そう来るよな」
奏根がそうぼやく様に言うと、ディフェンスを振り切るため、あちこち走り回る。
加奈もパスを出そうにも、聖加とエノアがダブルディフェンスで当たって来てるうえ、オールコートのため、すでに迫る様なディフェンスをしてきてるため、パスを出せないでいた。
加奈は何とかドリブルで切り抜けようとしたその時、智古がエノアにスクリーンをかけると、エノアが居る右サイドから抜きにかかる加奈。
加奈は、すぐに奏根にパスを出すと、静香がディフェンスに入る。
何とか抜こうと、レッグスルーで左に揺さぶりをかけると、静香は左により、奏根はフロントチェンジで素早く右に持ち替えると、抜きにかかる。
しかし、静香は反復横跳びですぐに右に移る。
奏根は、抜けない事を察すると、すぐに理亜にパスを出す。
パスを受け取った理亜。
それを鋭い目で見て、ディフェンス体制に入る芙美。
理亜は一度、片足を軸に後ろに振り向き、左にボールを少し突き出すと、すぐに右からドリブルで切り込む。
しかし、芙美はそれを読みもしないで、直感だけで右に移動し、抜かせなかった。
だが理亜は、その場でチェンジオブペースをし、抜けなかった事でもアピールするかの様なドリブルをすると、すぐにダックインで、芙美の右脇腹から強引に抜いた。
抜いた先で理亜は、ワンステップでフリースローラインから跳躍し、レイアップシュートの様な飛び方をすると、ダンクする構えになる。
ダンクで来ると、思い込んだ順子は、ゴール下でジャンプし、ブロック体制に入る。
激突寸前の所で、理亜は、ダンクの構えのまま、今にでもダンクしてやるぞ、と言う意気込みを見せつけながら、突如、ボールを下に下げ、右下にボウリングの様に放り投げると、そのゴール下には、順子とマッチアップしていた高貴が居る。
高貴はそれを受け取ると、すぐさまダンクで決める。
点数は四十九対四十八。
もちろん、逆転しても気は抜けない。
ハーフラインから決まれば、一気に五点が入ってしまうと言うのもあるが、この時の理亜は、ある違和感を感じていた。
「はあー。あそこまでギリギリに引き付けられたら、私でも連続ジャンプでブロックするなんて芸当できないな」
「お主に落ち度はない。あの八番を抜かせてしまった我に非がある」
順子が芙美に近付きながら、あっちゃー、見たいなノリで話すと、芙美は落ち着いた声音で、淡々という。
「にしても芙美、お前が気を抜くなんて珍しいな。いや、この場合、気を抜いたんじゃなくて、少し考え事して気が反られてたとか?」
順子が少し怪訝な面持ちでそう言う。
「……言い得て妙じゃな。まあ、第四クウォーターに入れば、この戦況も一変する。それまでには奴の手の内を詳らかにするつもりじゃ」
「たく。気が抜けてんのか冷静なのか分かんねえな、お前は」
顔色一つ変えず、冷静に喋る芙美に対し、毎度の事ながら、見たいなノリで後頭部をポリポリかきながら、だるそうに喋る順子。
そして、再び試合の歯車は回り始める。


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