
第二十九章 輪の力 十一話
順子がエノアにパスを出すと、すぐに行動を起こす、奏根たち。
智古サイドラインへ、加奈がスローインラインに走り出し、すぐにサイクロンストップを発動させると、奏根がハーフラインの中央でディフェンスの構えを取る。
「そう来たか」
順子が、若干焦りながらそう口にする。
「あの六番はともかく、五番の選手は、サイクロンストップを破れないはずだ」
願いながらそう呟く豪真。
「エノアさんと聖加さんのチームプレイを止めるには、流石の見立てですね」
達樹が感心している中、エノアがどう攻めるかドリブルしながら考えていると、加奈が向かってくる。
「そうだ。サイクロンストップはただの予防線。点を入れるには奪うしかない」
鋭い眼差しで、エノアに走り出す加奈に目を向ける豪真。
順子たちのコートのフリースローラインで、加奈がエノアのボールを奪いにかかると、なんと、奏根、一人だけを置いて相手チームのコートでディフェンス体制を取る理亜たち。
すでに、高貴は順子たちのコートの下に居て、それに対し、順子は、高貴をフリーにさせまいと、マッチアップをする。
理亜や智古も、芙美と聖加のマークを付けられながらも、敵チームのコート内で、走り回り、加奈がボールを奪うのを信じていた。
すると、加奈が大胆にも、右手でドリブルしているエノアのボールを奪いにかかる。
エノアは、一瞬ギョッとし、すぐにロールターンで躱すが、それを読んでいた加奈が、抜かせたと思わせたエノアのボールを後ろから、カットする。
驚いてエノアが振り向いた時には、加奈は相手チームのゴール下に向けドリブルしていた。
加奈は、先程の理亜と同じ戦術で行こうとしていた。
瞬発力が高い順子を、完全に止めるには、ダンクかレイアップで、ギリギリまで引き付け、すぐゴール下に居る高貴にパスを出すのが賢明と判断していた。
しかし、順子は分かっていた。
同じ過ちは繰り返さない、と。
加奈がワンハンドステップでジャンプし、レイアップシュートをする構えを取る。
すると、順子は、ディフェンス体制に入る所か、高貴から優位なポジションを確保するでもなく、脱力した様な体制で、ただ、突っ立っていただけだった。
そこで、違和感を感じた加奈と高貴は、互いに顔を向け頷き合うと、高貴が、これでもかと言うスクリーンを順子にかける。
両腕をきっちり広げ、絶対に抜かせないと言う、信念を見せつけるかの様なスクリーンアウト。
加奈が左サイドから、そのままレイアップシュートを決める寸前と言う所。
ボールを手放した瞬間、くわっ! とした感じで順子が両目を開け、高貴がスクリーンをかけている右側に向けバク宙をし始めた。
ムーンサルトの様な三日月を描きながら、順子の身体が完全に反転した時、加奈と目が合った順子。
順子は、リングよりやや高い位置にまで飛ぶと、左手で入るギリギリのボールを強く弾く。
バチン!
「「――!」」
まさかのブロックに一驚する智古と高貴。


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