
第三十章 乱歩・気流 三話
各々、ポジションに着くと、静香が奏根に対し、「さっきより胸しぼんだ?」と無表情でそう言うと、奏根は「やかましいわ! この情緒不安定女!」と激怒する。
その一方。
「お主じゃな。死地の中、臨界点を突破した、逸脱者と言うのは?」
「え? え? 臨界点? 逸脱者?」
芙美が理亜に対し、淡々とそう言うと、理亜は動揺する。
「なんじゃ、唐変木の類か? どちらにしても、ここで主の真価が問われる。栄えある脚光を浴びるスターと昇華するか、或いは、ただの雌豚で終わるか。……お主はどちらに転ぶかえ」
「えっ⁉ 何この子⁉」
芙美が艶笑に微笑みながらそう言うと、理亜はドン引きしていた。
そして、始まった第四クウォーター。
審判のお兄さんが、ホイッスルを鳴らすと、順子と高貴が高く飛ぶ。
お互いの力が拮抗するかの様に、激しくボールを押し合う二人。
そこで押し勝ったのは、高貴だった。
高貴の弾いたボールは智古が手に取ると、聖加が奪いにかかる。
ハーフライン付近で、智古がドリブルで聖加を抜こうとしたその時、奏根が聖加にスクリーンをかける。
その隙に左から抜いた智古。
しかし、聖加は身体をクルリと回し、奏根のスクリーンを躱して、智古の前に再び出る。
それを予想していた智古は、正面でぶつかる前に、加奈にパスを出す。
パスを貰いにエノアの前に出たかと思いきや、エノアは加奈を頭上から飛び越し、加奈の前に出る。
一驚する加奈に対し、エノアは智古のパスを奪うと、すぐにドリブルで理亜たちのコートに走り出す。
その後を追う加奈。
そして、エノアは特にフリーでもない芙美に、何の躊躇もなくパスを出す。
フリースローラインでマッチアップする理亜と芙美。
芙美は両手で握りしめていたボールを、一切のフェイクなしで、レッグスルーで右手に手に取ると、そのままジャンプシュートをする。
余裕でブロックできる理亜。
それは、誰もが確信するほどだった。
「乱歩……気流」
独り言の様に呟く芙美。
すると、芙美が放ったボールを理亜がブロックしようとしたその時、スカッとからぶる理亜。
理亜は訳が分からなかった。
確かにボールは目で認識でき、かつ圧迫感もあった。
なのに何故か、ボールは透明でもなければ、実態があるはずなのに、何故かは分からないが、からぶってしまったのだ。
すると、その左で、もう一人の芙美がジャンプシュートを打っていた。
ジャンプした状態で横目で見ながら驚愕する理亜。
そのシュートは、ゴール下に居た高貴ですら予想できず、ジャンプするタイミングを完全に逃し、そのシュートは決まった。


コメント