
第三章 懐かしい感覚を置き去りにして 七話
「み、みなさん。気持ちを切り替えましょう」
「ええ。そうですわね」
理亜が満足げに自分のコートに戻ると、加奈がおどおどしながらも、奏根たちに指示を出す。
それを聞いた高貴は気持ちを切り替え、エンドラインからペイントエリアに居る加奈にボールをパスする。
「加奈ちゃんがポイントガード?」
理亜は自分のコート、フリースローサークル辺りで首を傾げる。
高貴はハーフライン辺りで待機し、奏根と智古が理亜のコートのサイドライン側で左右に向け走り出した。
左右から奏根と智古が走り出したが、取り乱す事なくフリースローラインでディフェンスに徹する理亜。
すると、ゆっくり近付いてきた加奈がスリーポイントラインでドリブルを止め、まるで野球のピッチャーが投げる様なフォームになる。
「えっ、まさかレーザーパス?」
おとなしいように見えて大胆な戦術をとる加奈に、一驚する理亜。
しかし、理亜は動じる事無く、奏根と智古のどちらにボールを渡してもすぐに走れる様、準備する。
理亜にはレーザーパスすらも追いつける自信があった。
そこで、加奈が片手でぶん投げるように高速パスをしてきた。
投げた先は智古だった。
智古はパスを受ける体制で待っていた。
智古の所に向かっていくボールに食いつくように向かっていく理亜。
時速、百キロを超えるスピードと同等の物だった。
「凄いね。理亜ちゃん。でも……残念♪」
智古は受け取るポーズのままボールと理亜が向かってくる所に向け、意地悪そうに下をぺろりとだした。
理亜はそんな智古を見て、「――え?」と鳩が豆鉄砲を食ったような表情になる。
理亜は一体どういう意味か考えながらも、ボールを追いかけ、何とか智古がボールを受け取る前ギリギリに智古の元に近づけた。
間に合ったと安堵する暇もなく智古の前でディフェンスに移ろうとした矢先、智古が受け取る寸前に、ボールが突如ラン回転し、智古や理亜から離れるようにして、軌道を変えたボール。
そのボールは理亜の守っているゴールリングに向かっていた。
理亜は驚愕しながらディフェンスする体制からすぐに切り替えようとしたが、時既に遅し、ゴールリングの頭上で、今度は奏根がそのボールを宙で掴み取り、そのままダンクした。
「よっしゃ!」
「うそー!」
奏根がガッツポーズを取ると、理亜が一驚する。
「ざまあみろ! ふしだら代表女。ひゃっひゃっひゃっ!」
上機嫌で自分のコートに戻っていく奏根。
理亜は悔しそうにしながら、すぐにボールを掴み、自身のコートのエンドラインからドリブルを始める。
「よし! 一本止めるぞ!」
「おー!」
奏根のやる気に意気投合する高貴たち。
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