
第三章 懐かしい感覚を置き去りにして 八話
すぐに点を取り返そうとした理亜。
ドリブルでまだ自身のコートのフリースローラインに居る時だった。
高貴と智古が理亜のコート場のセンターサークルで妙なポーズを取っていた。
体を捻り、両手を肩幅より上げ、両腕を同じ所に伸ばす。
理亜は何を仕掛けてくるのか想像がつかなくその場で止まる。
「「秘技! サイクロンストップ!」」
智古と高貴が声を張り上げながら揃えてそう言うと、捻っていた身体と腕を反対側にまで勢いよく捻る。
すると、センターサークルで目で視認できる程の竜巻が発生した。
「えっ! なにこれ⁉」
理亜はその場でボールを弾ませながら、驚愕した。
「残念だったな。これでお前はこっちのコートに来れない。バイオレーションを取られるのが関の山だ」
奏根が偉そうにそう言うと、理亜はカチンときて無理にでもその竜巻の中を通ろうとしたが、勢いよくドリブルで竜巻に突っ込んだものの、弾かれてしまった。
「くっ!」
弾かれた衝撃で尻餅をついてしまい、ボールを放してしまう理亜。
「今だ!」
すると、奏根がタイミングよく止んだ竜巻の中に突っ込み、理亜のいるコート上に転がったボールを手に取る。
「させない!」
理亜は歯を食いしばりながら奏根の居る、サイドライン側に走り出す。
しかし、奏根はボールを持つと軽く宙に放り投げる。
そして、高貴と智古がしたサイクロンストップを独断でやる。
すると、発生した竜巻が、まるで生き物みたいな奇怪な動きで、ボールを覆い、楕円状の軌道を描きながら理亜のコート場のリングに向かっていく。
とぐろを巻く様な竜巻はまるで風の魔法の様な感じにも思えた。
その竜巻に向かって跳躍する理亜。
しかし、弾かれてしまい、またもやコートの床で尻餅をつく。
そして、竜巻に覆い被さったボールはリングの中に入ってしまう。
グルグルと、回転でもしているかのようにネットが動いていた。
「うわー。そんなのありー」
「アッハッハッハ!」
理亜の消沈した声に天狗の鼻にでもなったかの様な有頂天になる奏根。
「ごめんね理亜ちゃん。でもこれ、勝負だから」
智古が軽く誤るとテクテクとした足取りで自分のコートに戻る。
理亜は自身のコート場のエンドラインに戻ると、大きく深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。
先程の奏根のシュートはフリースローポイント辺りからのシュートだったので、二点入った事になる。
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