
第三十二章 エクストラロード対エクストラロード 一話
残り時間は四分を切っていた。
点数は八十一対九十一の十点差。
非常にまずい状況。
すると、奏根が理亜の所に向かい、尻を強く叩く。
「いた! もうー」
「いつまでしけた面してんだ。取られたら取り返す。スポーツはそう言うもんだろ。勝敗の先を見るな。今を見ろ。勝つんじゃなくて。点を取る事だけに集中しろ」
奏根の力強い思いに、終始感動した理亜。
「ねえ、奏根ちゃん。それからみんな。ここから先は私にパスを回して」
「「えっ⁉」」
真剣にそう提案する理亜の言葉に、一驚する奏根たち。
少し、互いの顔を見合わせた奏根たちは「はい。後はエースに任せます」と高貴が語気に力を強めそう言うと、加奈と智古も強く頷く。
すると、奏根は「まあ、お前がマッチアップしている相手だし、道理だよなあ」とうわごとの様に口にすると、智古が「照れちゃって~」と意地悪っこい笑みで、奏根の顔をまじまじと見る。
「違うって! とにかくだ。任せたからには、頼んだぞ」
「みんな……うん!」
奏根が少し赤面してそう言うと、理亜は感涙でもするかのように、目をウルウルさせ、満面の笑みで頷く。
そして、加奈がすぐさま、理亜にパスを出す。
ボールをがっしり掴み、誰にも渡さないぞ、と言う意気込みが強く伝わっていた芙美は、初めて理亜を警戒した。
何か、様子がおかしい。
理亜は目を瞑り、心臓の鼓動だけでなく、ペナルトギアからも、未知の何かが伝わってきた。
だが、それが未知ではなく、経験した何かだった。
心臓の鼓動と共に、義足から伝わってくる、脈動の様な一体感。
それからゆっくり目を開けると、理亜の瞳には、冷静さが伺えた。
悟りを開いたかの様な目で、理亜はなんの技術も使わず、芙美の右側をドリブルして歩いて行った。
そこで、芙美は違和感に気付く。
意識が定まらず、上手く体が動かせない違和感に。


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